コラム

    • 公益法人制度改革と医療

    • 2010年03月30日2010:03:30:01:22:47
      • 鈴木克己
        • 税理士

 いわゆる“民”が提供する医療の多くは、個人の医師が経営者となって医療を提供する個人形態と医療法人が医療を提供する医療法人形態である。ただ、それ以外にも財団法人や社団法人といった“公益法人”がある。これら公益法人は、数は少ないものの、地域の医療の重要な部分を担っている。 

 病院などの事業を行っている公益法人(以下「公益法人病院」)は全国で約300存在すると言われている。これら公益法人病院は、平成20年12月1日を施行日とする公益法人制度改革により法人としての組織のあり方の見直しを迫られている。 

 今回は、公益法人制度改革と医療の公益性について考えたい。 

 ■公益法人制度改革の概要 

 公益法人は、公益的活動を担う代表的な主体として、今日まで大きな役割を果たしてきた。 

 しかしながら、現在の制度は、主務官庁の権限が強く、主務官庁の許可がなければ、法人の設立すら認められないこと、また、公益性についても主務官庁が独自に判断することから、天下りの温床として様々な問題点が指摘されていた。 

 そこで、これらの問題に適切に対処するために、公益法人制度を抜本的に見直し、その活動を促進することを目的として、公益法人制度改革が行われた(行われている)。 

 改革のポイントは、次の3つである。 

(1)公益法人の体系の見直し 
 現行の制度では、公益法人を設立しようとする場合には、主務官庁の許可が必要とされるため、主務官庁の許可がなければ、法人の設立すら認めらない。しかし、公益法人制度改革では、法人の設立許可と公益性の判断を分離した上で、公益法人の体系を「一般社団法人及び一般財団法人」と「公益社団法人及び公益財団法人」に区分する。その上で、一般社団法人及び一般財団法人は、登記のみで設立を可能とした。つまり、“一般”社団法人・“一般”財団法人は、登記の要件さえ整えば、誰でも設立できるということである。 

 誰でもできる法人であることから、“一般”社団法人・“一般”財団法人は、比較的自由度の高い法人であるといえる。 

(2)民間有識者からなる合議制機関(公益認定等委員会)による公益認定制度の創設 
  現行の制度では、公益性の判断は主務官庁が独自に行っており、裁量行政の側面が非常に強く、天下りの温床として問題視されてきた。しかし、今後は、民間有識者からなる合議制の機関(以下「公益認定等委員会」)が公益性の有無を判断し、公益認定等委員会により公益の認定を与えられた法人が公益法人を名乗ることができる。 

(3)既存の公益法人の移行・解散 
 既存の公益法人、すなわち、新制度がスタートする前に公益法人として活動していた法人は、新法の施行日(平成20年12月1日)から5年間、即ち、平成25年11月30日まで移行期間が設定され、その期間内に新制度における「公益社団法人・公益財団法人」への移行の“認定”の申請を行なうか、又は「一般社団法人・一般財団法人」への移行の“認可”の申請を行う必要がある。なお、移行期間中に新制度への移行ができない場合には、強制的に解散させられる。300ある公益法人病院も例外なく移行期間内に引き続き公益法人として存在していくのか、比較的自由度の高い一般法人に生まれ変わるのかの選択を迫られている。 

 ■医療の公益性 

 公益法人病院が公益法人として存続していくための大きなポイントの一つが、「事業の公益性をどのように主張できるか」である。 

 ここで、公益の定義は、「学術、技芸、慈善その他の公益に関する事業であって、不特定かつ多数の者の利益の増進に寄与するもの」とされている。 

 医療は、常識的に見ても、公益そのものに思われる。 

 しかしながら、冒頭コメントしたように、医療そのものは個人形態や医療法人形態などいわゆる“民間”(ここではそのように整理する)の組織体で幅広く提供されている事業であることから、実際の申請の場面では、それら“民間”が提供する医療との違いを説明することを要求される。 

 公益法人病院の多くは、地域医療の中核を担っている場合が多い。例えば、いわゆる4疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病)・5事業(救急医療、災害時における医療、へき地の医療、周産期医療、小児救急医療を含む小児医療など)の観点から“民間”では担いきれていない医療を提供している点を強く説明し、事業の公益性を訴えることができる。 

 しかし、中には事業の公益性を主張しきれずに、“一般”社団法人・“一般”財団法人に移行せざるを得ない法人も出てくる。この場合、従来から公益法人として受けてきた税の恩恵等が受けられなくなる場合もあり、法人運営を根本から見直さなければならないことも想定される。その結果、医療の提供に支障が生じてしまうことも考えられる。 

 公益法人制度改革は、これまで深く議論されてこなかった「医療は公益なのかどうか」という問題を突きつけた。 

 公益法人の問題だけに捉われずに、“民間”が提供する医療も含めて、医療の公益性を考え、必要な措置(税からの支援、予算的な支援)などを検討し、最終的には医療の安定に繋げる。公益法人制度改革はそのきっかけになりうるのではないだろうか。

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