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先見創意の会

成年年齢の引き下げ

松尾貴雅 弁護士

はじめに

今年4月1日から、成年年齢を引き下げる改正民法が施行される。
この改正による医療実務への影響について検討してみたい。

改正民法の内容

改正により、成年年齢が、従来の20歳から18歳へと引き下げられる。

施行日(2022年4月1日)より後に18歳の誕生日を迎える人(2004年4月2日生まれ以降の人)は、18歳の誕生日に成年に達する。

一方、施行日の時点で18歳以上20歳未満の人(2002年4月2日生まれから2004年4月1日生まれまでの人)については、施行日に一斉に成年に達する扱いとされている。

関係法令

民法の改正に伴い、関係法令の改正も行われている。また、法令自体の改正はないものの、成年年齢の引き下げにより影響があるものも存在する。

医療に関連するものとしては、各種資格の取得可能年齢が挙げられる。

医師法第3条、歯科医師法第3条、薬剤師法第4条には、「未成年者には、免許を与えない。」と規定されているが、民法改正に伴い、「未成年者」は、従来の“20歳未満の者”という意味から、“18歳未満の者”という意味に変わる。

もっとも、18歳・19歳で免許を取得することは、現実的にはほとんど不可能であるので、実際上の影響はないといっていいだろう。

診療契約の締結

法的に見ると、医療機関が患者に対して診療を行う際には、患者との間で“診療契約”を締結していることとなるが、この場面で法改正の影響がある。

そもそも、成年に達することの法的な意味は、親権者の親権から離脱し、法律行為(契約等)を単独で有効に行えるようになることにある。

つまり、未成年者が法律行為を行うには、その法定代理人(一般的には親権者)の同意を得なければならず(民法第5条第1項)、同意を得ずに行われた法律行為は、取り消すことができる(民法第5条第2項)という未成年者に対する法的保護から脱するのである。

成年年齢の引き下げに伴い、18歳・19歳の患者との間で締結した診療契約も、親権者の同意がなくとも有効ということになり、診療費も、契約当事者である患者本人に請求できることとなる。

とはいえ、18歳・19歳といえば、多くは高校3年生から大学生という年齢であり、経済的に自立していない場合が多いと考えられる。

したがって、入院を伴う場合等、診療費が高額となる場合には、親権者等の“実際にお金を支払う人”に連帯保証人となってもらうなどの方策をとっておくことが、診療費請求事務上は安全であると考えられる。

なお、親権者等の個人に連帯保証人となってもらう場合には、注意すべき点がある。

契約締結時点では保証の範囲が定まっていない保証契約(例えば、入院時点では保証してもらう入院費が100万円なのか300万円なのか分からない場合)については、「極度額」(最大いくらまで保証するかという金額)を定めなければ、保証契約自体が無効となってしまう(民法第465条の2第2項)。

したがって、このような場合には、連帯保証人に記載を求める用紙に、極度額の定めを入れておく必要がある。

医療行為に対する同意(インフォームドコンセント)

診療契約締結の場面とは異なり、医療行為に対する同意の取得(インフォームドコンセント)の場面においては、法改正の影響は限定的である。

インフォームドコンセントについては、一般的に、その医療行為の侵襲の意味が理解でき、侵襲によってどのような結果が生ずるかを判断できる能力があればよいとされている。

そのような理解力・判断力は、法律上の成年年齢の定めとは本来関係がない。

したがって、理解力・判断力を十分に備えた18歳・19歳の患者については、従来と変わらず、医療行為に対して有効な同意をする能力があると考えるのが合理的である。

なお、患者が未成年者の場合には、慎重を期して、本人に加え親権者の同意を得てきた医療機関も多いかと思われるが、法改正に伴い、18歳・19歳の患者については、インフォームドコンセントの場面で保護者の同意をもらう必要性は減退すると考えられる。

おわりに

以上のほか、細かな問題としては、院内で使用している書類に「20歳未満の患者」といった記載がある場合、それが未成年者のことを指すのであれば、「18歳未満の患者」であるとか、「未成年者である患者」といった記載に改める必要がある。

改正法の施行まで時間がないが、書類の改訂の必要性や、18歳・19歳の患者との契約で診療費が高額となる場合の対応方針等について検討されてはいかがだろうか。

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松尾 貴雅(弁護士)

2022.02.03