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先見創意の会

地域包括ケア/地域づくりに向けた当大学の取組 -その2-

川越雅弘 埼玉県立大学大学院・研究開発センター 教授

1.はじめに

前回は、地域包括ケア関係者の課題解決力(=マネジメント力)向上に向けた当大学の人材育成の仕組みを紹介した。今回は、その一環である「ネットワーク会議」を通じた子どもの食支援に関する課題解決への取組例を紹介するとともに、これら取組を通じて感じた大学の役割について私見を述べる。(※1回目はこちら

2.ネットワーク会議とは

1)ネットワーク会議が目指すこと(ゴール)
地域課題が多様化、複合化するなか、「多様な主体を交えながら、地域レベルで課題解決を図っていく力(=地域課題解決力)」の強化が現在求められている。
本会議では、地域課題を知っている人、地域課題の解決手段を持っている人の交流を促進することを通じて、➀地域課題解決力を高める(知識向上、ノウハウ獲得など)とともに、➁具体的な課題解決に向けた行動・活動につなげ、その結果として、地域の課題解決に貢献することを目指している(図1)。

2)ゴール達成に向けて必要な要素とは
ネットワーク会議の運営方法を検討するに当たり、「地域単位での課題解決の実現」を達成するために必要な要素を検討し、以下の4要素を抽出した。
(1)課題解決をしたい人、解決手段を有する人が交流できる「場」を用意すること(⇒場の提供)
(2)地域ニーズを、解決手段を有する人が知ること。逆に、どんな解決手段を有した人や組織があるかを、ニーズ側が知ること(⇒相互理解の促進)
(3)課題解決に必要な知識やノウハウ、ネットワーク力を高めること(⇒解決力の向上)
(4)地域課題に関心を持つ関係者間でニーズや現状を共有し、解決手段を考えていくこと。また、具体的に展開していくこと(⇒プロジェクトの立上げと推進。地域単位での展開)

3)コロナ禍でのネットワーク会議の運営方法
従来は集合型の会議を実施していたが、多くの参加者を集めた会議は当面難しいと判断し、Zoomを使った会議の形態に変更。2020年6月から、コアメンバーを中心とした少人数での会議を開始した(週1回ペース)。

その中で、①現状報告、②本会議で検討する地域課題に関する意見交換を実施し、「子どもの食支援」に関するテーマを当面検討することとした。また、子どもの食支援の関係者をコアメンバーがリクルートし、会議への参加を促していった。

現在は、食材提供団体(NPO法人フードバンク埼玉)、子ども食堂関係者、生協、地域包括支援センター、地区社協、市町村、民間企業の方など、約20名が同会議に参加している。

図1. ネットワーク会議のゴールとゴール達成に必要な要素について 
(出所:筆者作成)

https://www.senkensoi.net/wp-content/uploads/2021/02/図1.jpg

3.ネットワーク会議を通じた課題抽出と対策の実施(テーマ:子どもの食支援)

1)子どもの食支援活動の現状
ネットワーク会議に参加した子どもの食支援に関わる関係者から、現状をヒアリングした。
(1)食材提供団体(フードバンク)へのヒアリング
フードバンク活動とは、規格外品や包装の印字ミスなど商品の品質には問題がないにもかかわらず通常の販売が困難になった食品をNPOなどが引き取って、子ども食堂や福祉施設などに無償で提供する活動のことで(図2)、県内には、「NPO法人フードバンク埼玉」「NPO法人フードバンク西埼玉」「認定NPO法人セカンドハーベスト・ジャパン」などがある(埼玉県HPより)。このうち、NPO法人フードバンク埼玉の関係者に会議に参加いただき、現状(目的・体制・運営方法など)をヒアリングした。

その結果、
➀コロナ禍で業務量が増大するなか、運営体制が十分ではないこと。
➁ニーズの高まりを受け、食材の供給元を拡大する必要があること。
➂県内の地域拠点が3か所しかないため、同拠点と支援者間の物流に課題があること。また、食材を提供したいという住民からの問い合わせも増えているが、居住地の近くに地域拠点がない場合、本部(浦和)まで郵送が必要なこと。
などがわかった。

https://www.senkensoi.net/wp-content/uploads/2021/02/図2.jpg

出所)埼玉県HPより引用

(2)子ども食堂関係者へのヒアリング
子ども食堂とは、子どもが一人でも行ける無料または低額の食堂のことで、2012年に発足後年々増加し、2020年現在、全国で5千か所を超えている(NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」調査より)。

県内の複数の子ども食堂関係者に会議に参加いただき、現状や現在の困りごとなどをヒアリングした。その結果、
➀従来のような「みんなで一緒に食事をする」ことが難しくなったため、「お弁当の配布」「食材等の配布(フードパントリー)」などの形態に変えて活動しているところが多いこと
➁従来方法であれば、1回1万-2万円程度で運営できていたが、フードパントリーを定期開催する形だと一度に多くの食材が必要になり、その確保が大変であること(費用面を含めて)
➂運営上で困っていることは、ア)感染防止の対応の困難さ、イ)資金不足、ウ)スタッフ等のマンパワー不足、エ)場所の確保の困難さ、オ)食材不足などであること
などがわかった。

2)解決すべき課題の整理
これら関係者からのヒアリング結果をもとに、解決すべき当面の課題として、
【解決課題1】食材提供先の確保・拡大
【解決課題2】地域拠点の整備
【解決課題3】支援団体の活動支援と拡大
の3点を設定した(図3)。

図3. 運営上の課題と解決すべき課題の整理
https://www.senkensoi.net/wp-content/uploads/2021/02/図3.jpg

3)対策の実施例(解決すべき課題1に対して)
ネットワーク会議には、民間企業にも一部参加いただいている。食材提供に対するニーズが高いことを知った埼玉トヨペットホールディングスの方から「災害備蓄品を提供したい」との申出が筆者にあり、大学の県出向者から担当部局につないでもらって、県経由でNPO法人フードバンク埼玉に提供され、フードバンク12団体に寄贈されることとなった。

4.地域共生社会の推進に向けた国の施策動向とその中での大学の役割

厚生労働省は、地域共生社会を、「制度・分野ごとの『縦割り』や「支え手」「受け手」という関係を超えて、地域住民や地域の多様な主体が『我が事』として参画し、人と人、人と資源が世代や分野を超えて『丸ごと』つながることで、住民一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていく社会」と定義し、その実現に向けた様々な施策を現在展開している。こうしたなか、多様な担い手の参画による地域共生に資する地域活動の普及促進の観点から検討されているのが「分野・領域を超えた地域づくりの担い手が出会い、更なる展開の場(=プラットフォーム)を通じた地域活動の推進」である(図4)。

理念としてはすばらしいものであるが、組織風土、価値観や得意領域、得意とする手法が異なる多様な関係者を交えて、地域課題を共有し、課題解決に向けて協働することを地域単位(中心は市町村と考える)で推し進めることはそう簡単ではない。

問題は、どこがこうしたプラットフォームの立ち上げを行い、継続的に運営していくかである。市町村単位のプラットフォームであれば、市町村や地区医師会などがその有力候補として考えられるが、民間企業との協働のハードルは高い。逆に、子ども食堂や地区社協などの直接支援者側が動かすことも現実的ではない。したがって、両者の中間的な立ち位置にある公立大学などが中心的に立ち上げに関与し、その後の継続的運営に関しては市町村に徐々に移管していく形が1つのモデルではないかと考える。

そのための試行として、現在、子どもの食支援をテーマに、多様な関係者を巻き込んで課題解決を図っていくといった会議体を動かしているのである。今後、テーマも拡大しながら、モデル市町村でのプラットフォームの試行と広域プラットフォームによる支援のあり方などを検証していく予定である。

図4. 地域共生に資する取組について

https://www.senkensoi.net/wp-content/uploads/2021/02/図4.jpg

出所)厚生労働省:社会福祉法の改正趣旨・改正概要について、令和2年度地域共生社会の実現に向けた市町村における包括的な支援体制の整備に関する全国担当者会議(2020年7月17日)資料1より転載。

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川越雅弘(埼玉県立大学大学院 教授)

◇◇川越雅弘氏の掲載済コラム◇◇
◆「地域包括ケア/地域づくりに向けた当大学の取組(1)」【2020年12月15日掲載】
◆「新型コロナ感染拡大が介護・高齢者支援に及ぼした影響とは(2)」【2020年8月4日掲載】
◆「新型コロナ感染拡大が介護・高齢者支援に及ぼした影響とは(1)」【2020年7月21日掲載】

☞それ以前のコラムはこちらから

2021.02.23