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リムランド国家が直面する構造的危険 ――ウクライナの悲劇から日本が学ぶべきこと

寺﨑 明 一般財団法人 情報通信振興会 理事長

ウクライナ戦争をめぐって語る際、侵攻を受けた側が示した抵抗と勇気、そして 国民が払っている甚大な犠牲に、まず深い敬意を払う必要がある。そのうえで本 稿が問いたいのは、誰が善で誰が悪かではなく、なぜ同様の悲劇が繰り返される のかという点である。

ウクライナの悲劇は、指導者の判断や能力の問題もあるが、それだけで説明できるものではない。フランス歴史家・人類学者であるエマニュエル・トッドが指摘してきたように、リムランド、すなわち大国の勢力が交錯する縁辺地帯に位置する国家は、構造的に極めて高いリ スクを背負っている。正当な主張や勇気ある選択であっても、自国の意思だけで 運命を制御することは難しい。

超大国は価値や理念を語る。しかし最終的に行動を決めるのは、常に自国の利益である。支援は条件付きであり、永続的ではない。そして戦争の最大の代償を払うのは、前線に立つ国家とその国民である。この現実は冷酷だが、目を背けることはできない。

この構造的危険は、日本にとっても無関係ではない。日本もまた、米国、中国、ロシアという大国に囲まれたリムランド国家である。戦後の日米安保体制は日本に平和と繁栄をもたらした一方で、戦略的判断を外部に委ねる状態を長く固定化してきた。その結果、私たちは自国の身の丈や選択肢を、自ら考える習慣を弱めてはいないだろうか。

いま日本に必要なのは、声高に正義を唱えることでも、拙速に力を誇示することでもない。攻めないが、攻めさせない備えを整え、感情ではなく利害と持続性で外交と安全保障を考えることである。沈黙や抑制もまた、戦略になりうる。

ウクライナの悲劇を無駄にしないとは、彼らの選択を批判することではない。同じ構造の中で、日本がより不幸な道を選ばないための知恵を持つことである。日本は「正しい国」である以前に、「失敗しない国」でなければならない。その覚悟こそが、リムランド国家が生き残る条件である。

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寺﨑 明(一般財団法人情報通信振興会 理事長)

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「電波利用の将来は、実に多彩だ」【2022.2.22掲載】
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2026.02.03