新しい地域医療構想における急性期拠点機能の考え方
工藤 高 [(株)MMオフィス 代表取締役]
二次医療圏人口が少ないと救急搬送件数2,000件以上は困難へ
2027年から開始する医療法における新たな地域医療構想では、急性期医療に関連する機能として「急性期拠点機能」「高齢者救急・地域急性期機能」「専門等機能」等を病院の要報告事項とされた。 。「急性期拠点機能」は「地域での持続可能な医療従事者の働き方や医療の質の確保に資するよう、手術や救急医療等の医療資源を多く要する症例を集約化した医療提供を行う」となっている。その報告に当たっては、地域シェア等の地域の実情も踏まえた一定の水準を満たす役割を設定する。また、アクセスや構想区域の規模も踏まえ、構想区域ごとにどの程度の病院数を確保するかがこれから検討される予定だ。
また、診療報酬においても急性期の機能をより明確化することが26年改定で行われる予定だ。これまで急性期機能や総合性に関する評価としてはDPC対象病院、高度急性期に対する加算である「総合入院体制加算」や「急性期充実体制加算」がある。7月3日の中医協「入院・外来医療等の調査・評価分科会」では急性期機能を(1)一般的な急性期機能と(2)拠点的な急性期機能の2つに区分し、それぞれの基準や評価指標を示した。その評価基準として「救急搬送」「全身麻酔手術」「総合性」の3点が提示された。
(1)一般的な急性期機能はDPCデータおよび病床機能報告をもとに救急搬送件数や手術件数を分析した。年間救急搬送受入件数2000件以上の病院は二次医療圏人口①20万人未満で10%、②20万人〜100万人未満で17%、③100万人以上で22%とされた。同様に4,000件以上受入は①1%、②8%、③11%であった。各二次医療圏に所属する医療機関が受けた救急搬送件数の総数は年間5,100件/10万人となっていた。
全身麻酔手術件数では、年間500件以上の病院が23%だった。ただし、急性期充実体制加算の対象となる手術実績では救急搬送受入500件以上の病院と比較して、同500件未満の病院では「加算対象となる手術が少ない」との指摘がされたが、当然のことだ。
一般的な急性期機能では救急搬送2,000件以上、全身麻酔手術500件以上が提示
(2)拠点的な急性期機能は「急性期充実体制加算」および「総合入院体制加算」の分析結果が示された。人口20万人未満の二次医療圏では、約8割の圏域でいずれの加算も届出がなかった一方、20万人以上の二次医療圏では9割以上でいずれかの加算を届け出ていた。また、急性期一般入院料1を届け出ている病院のうち、救急搬送件数4,000件以上の医療機関では、ほとんどが加算取得していた。
さらに救急搬送の地域シェア率に着目した分析では、搬送件数が多くない病院であっても、 当該医療圏における救急搬送の半数以上をカバーする病院があることも明らかとなり、地域の拠点的急性期機能を担う存在として評価する必要性が示唆された。全身麻酔手術については、大学病院本院を除き、各都道府県で最も件数の多い病院は秋田県を除く全てが2000件超となっていた。また、急性期充実体制加算および総合入院体制加算のいずれかを届け出ている病院では、標榜診療科の多さという面からも「総合性」が確認された。今回、提示された基準は、(1)一般的な急性期機能では「救急搬送2000件以上」「全身麻酔手術500件以上」、(2)拠点的な急性期機能では「救急搬送の地域シェア率50%以上」「手術件数2,000件以上」などになる。
人口規模の小さな二次医療圏では件数ではなく地域シェア率による基準が必要
地域シェア率に着目した分析において「人口規模の小さな二次医療圏では、救急搬送件数自体は大規模な医療圏に比較して多くないものの、地域の救急搬送の多くをカバーしている医療機関があった。これらの医療機関では急性期充実体制や総合入院体制加算は算定されていなかった」とされた。「各二次医療圏における最大救急搬送件数受入のある病院について、救急搬送件数と地域シェア率の分布を見ると、ほぼ全ての20万人未満医療圏において当該病院が地域の救急搬送の4分の1以上をカバー」が示されている。しかし、件数自体が少ないために、急性期充実体制加算で言えば「救急搬送件数年間2,000件以上」および「全身麻酔年間2,000件以上」のダブル2,000件がクリアできない。
救急搬送件数については年間2,000件以上が施設基準の「地域医療体制確保加算」(620点、入院初日)も同様である。A病院がある二次医療圏は人口9万人であり、年間救急搬送件数は二次医療圏内が2,000件強、医療圏外が500件強となっている。二次医療圏内2,000件を200床未満の3つの救急告示病院で受入しており、その中でA病院がシェア6割の1,200件を受け入れているが、地域医療体制確保加算2,000件以上の要件は満たさない。同院は麻酔科医常勤医も2人おり、年間300件の全身麻酔手術を実施しているが、これも2,000件には遠く及ばない。
入院・外来医療等の調査・評価分科会では二次医療圏ごとの評価は「人口規模が小さい医療圏では、シェア率のような考え方を指標として用いることも考えられる」とされたため、同院では救急件数と麻酔件数についての人口に見合った要件見直しを期待している。たしかに同院は人口が少ない二次医療圏の2.5次医療までをカバーする急性期最後の砦であり、「急性期拠点機能」に値する。霞が関のビルからは都会の医療しか見えないが、人口規模が少ない中で急性期として地域の需要に対応している病院に対しての独自評価が必要だと思う。
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工藤 高 [(株)MMオフィス 代表取締役]
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