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先見創意の会

早期食道がんESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)入院で患者の立場から病院を見た

工藤 高 [(株)MMオフィス 代表取締役]

はじめに

筆者は大学卒業して新卒で病院へ入職して、医事課と経営企画課中心の勤務を18年、その後、独立して病院経営コンサルタントを23年と合計41年間にわたり、病院を内側と外側から見てきた。昨年7月に元同僚だった医師が開業する「かかりつけ医」である消化器内科クリニックで2年に1回ずつ行っている定期的な上部内視鏡検査で、食道と胃の接合部に怪しいところがあると再検査を勧められた。そこでクライアントである地域医療支援病院(300床)消化器外科に紹介状を書いてもらい、上部内視鏡再検査を受けたところ、病理結果から悪性所見が出た。

手術目的で大学病院(1000床)を紹介してもらい、早期の「バレット食道腺癌」との確定診断を受けた。同院消化器内科において昨年12月6日入院、7日に「食道ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)」施行、術後経過も問題なく、同院のクリニカルパス7日間どおりに12月12日の退院の運びとなった。その後、外来でリンパ節転移もなく、食道がんは取り切った旨を伝えられた。大学病院受診は本年2月予約済みの確認内視鏡で終了となり、その後は再びかかりつけ医の消化器内科クリニックでフォローすることになる。かかりつけ医で指摘→地域の中核病院における再検査でがん告知→大学病院で手術→再びかかりつけ医でフォローと絵に描いたような病診連携の中で患者の視点から入院について思ったことを書いてみたい。

がん、心疾患、脳血管疾患の三者択一のどれで死にたいのか

64歳の筆者は今回が人生3回目の入院となった。初回は18年前の胆石症に対する腹腔鏡下胆嚢摘出術で7日間入院、2回目は8年前のウイルス性腸炎による2日間入院と全てが消化器関係である。いくら早期とは言え「がん」という病名の告知は過去2回の入院とは重みが違った。厚労省によると日本人の3大死因は多い順に①がん、②心疾患、③脳血管疾患だったが、最近は3位が老衰となり、脳血管疾患と逆転した。筆者が現役の医事課長だった20年前は「老衰」を死亡診断書の「死亡の原因」にはなるべく記載しないで具体的な病名を研修医にはお願いしていた。

老衰が増加してきた理由は在宅医療普及による在宅看取り増加があると思われる。在宅で枯れるように亡くなっていく高齢者は、細かな画像診断や検査等もできないために死因は老衰となってしまう。かつてわが国では、自宅で亡くなるのが当たり前であり、統計をとり始めた1951年には、自宅死が82.5%に上っていた。それが25年後の1976年には病院死が自宅死を上回り、2005年には82.4%に達したが最近は自宅死や介護施設死で70%台に下がっている。

筆者は老衰を除く三者択一で死因を選択できるならば、従来からがん志望だった。心疾患、脳血管疾患は突然のアタックで逝くこともある。しかし、がんは告知されてから死までは時間があるため、いろんな準備ができる。今回は最初から早期と聞いていたので数年で逝くことはないだろうが、断捨離や遺言書作成など様々な身辺整理を行うきっかけになった。

家から近くて症例数の多い大学病院を入院先として選択

手術をした大学病院の選択理由は第一に自宅から近いこと、第二に高度な熟練技術が必要な食道ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)症例数が多いことだった。さらにがん告知をされた地域医療支援病院の病理医が同大学病院病理教室出身だったこともある。症例数であるが、これは厚労省が公開しているDPCデータによって知ることができた。また、DPC病院に対するボーナス評価と言える機能評価係数Ⅱにおける「地域医療係数」では、診療科別の上位5疾患の件数、平均在院日数を病院ホームページに公開することが要件のひとつになっている。これを行わないとペナルティとして減算となってしまう。上位5疾患に食道ESDがあれば、そこでも知ることができる。

ふだん病院経営分析で生業として行っているDPC公開データ分析が、そのまま患者の立場としてデータ抽出できたわけだ。DPC公開データから見ると手術をした大学病院の食道ESD症例数は2020年度で80件と少なくはないし、在院日数は10日(現在の同院パスは7日)となっていた。食道ESDを年間50件以上実施している他の大学病院において在院日数は5日から17日と大きなバラツキがあった。大学病院で症例数150件を超えるところはなく、200件以上実施病院は大阪国際がんセンター、国立がん研究センター東病院、がん研有明病院、国立がん研究センター中央病院とわが国の錚々たるがんセンター病院であった。それらでは平均在院日数も6日から8日となっており、食道ESD標準化が分かる。症例数が多いことは医師もメディカルスタッフも慣れているわけだが、注意しなければならないのは多くの医師が執刀している場合は病院あたり症例数が多くても、決して医師1人当たりの症例数は多くはないことだ。

医療にはコアサービスとサブサービスがある

医療はサービス業といわれて久しい。質の高い医療サービスを提供している医療機関は、当然のごとく患者や他医療機関の評判も悪くはない。レストランにおいて料理が美味かった。お店の雰囲気も最高だった。しかし、最後のお金を払う段になって、キャッシャーの態度が悪く、請求金額の内訳に対する質問にも答えられなかったら、客の満足度は低下してしまう。この場合、料理はコアサービス、お店の雰囲気やキャッシャーの態度はサブサービスとなる。

病院においても医事課の提供するサービスは医療本体というコアサービスではなく、サブサービスなのだが、CS(顧客満足)向上のためには実はこれが重要である。たとえば人間ドックのコアサービスは精度の高い検査や診断であるが、これは高い料金を支払う利用者にとって当たり前のことだ。人間ドックで満足度が高まるのは、エスコート係の接遇や食事、内装などがかもし出す雰囲気といったサブサービスである。新幹線もそうだが、時間どおりに新大阪駅に到着するコアサービスは当たり前のことである。今回、入院をした大学病院の医療技術というコアサービスは十分に満足であったし、そのアウトカム(結果)としてクリニカルパスどおりに7日間で退院できた。また、医師、看護師、メディカルスタッフ、医事課員の接遇の良さというサブサービスにも感心した。看護師は勤務帯ごとに担当が名札を差し出して自己紹介から始まる。このように医療においてもコアサービスとサブサービスはクルマの両輪のような機能を果たしている。

院内Wi-Fiのインフラとしての重要性

最近の病院におけるサブサービスのトレンドといえば入院患者用の院内Wi-Fiであろう。もちろん入院患者のほとんどが要介護5で意識障害ばかりの病院では不要である。ただし、最近は高齢者の多くはスマホを使うし、急性期病院で若い患者が多く入院している病院においてはインフラとして必要な時代になった。入院した大学病院はもちろん入院患者用院内Wi-Fi完備である。筆者はもともと出張が多いためにWi-Fi設備が無くても、自分用のルーターがあるために問題はないが一般の人は持っていない。

院内クラスター発生率が高いコロナ第8波到来で面会は禁止であり、入院患者は病棟から出ることもできずに院内コンビニに買い物へ行くこともできない。しかし、情報はiPhone、iPadさえあれば日経新聞はもともと宅配無しの電子版契約だし、定期購読している日経ビジネス、日経ヘルスケアも電子版が標準で付いている。雑誌も読み放題のdマガジン、単行本はKindle、映画はprime video、音楽はサブスクと院内コンビニに行かなくても、情報関連はベッド上で全てデジタル完結してしまう。ドリンク類は病棟内に自販機があるし、そもそも消化管手術入院のため間食は禁忌だ。院内コンビニ売上が減ったという話をよく聞くが、もっとも売れ線の新聞や雑誌がデジタルで閲覧可能になったからだ。電車に乗っても紙の新聞や週刊誌、文庫本を読んでいる人は希少な存在になった。若い人はテレビ自体を見なくなったため、院内Wi-Fiが最も重要な患者インフラになったことを「患者サービス第一主義」を経営理念に掲げる病院ほど認識すべきだと思う。

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工藤 高 [(株)MMオフィス 代表取締役]

◇◇工藤高氏の掲載済コラム◇◇
「後発医薬品メーカーに対して『10・10・10の法則』が作用」【2021.9.7掲載】

2023.01.10