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先見創意の会

高齢者のためのセカンドプレイス

片桐由喜 (小樽商科大学商学部 教授)

セカンドプレイスとは

現行の法定定年年齢は60歳であるけれども、今日、65歳までの雇用延長が義務化されている。さらに70歳を過ぎても、就労している者も少なからずいる。高齢労働者が多いのは日本、ないしは東アジアの特徴といってよい。二宮尊徳が体現した勤労の美徳も影響しているだろうが、高齢者が就労を続ける理由の筆頭は収入の確保である。それ以外に社会とのつながりを求めてという理由も掲げられている。あるいは、特に男性高齢者の場合、家にいるより、外に出る方が気楽(?)ということもあるかもしれない。

しかし、いつかは年齢を理由に、あるいは、年齢に由来する健康上の理由で職場を完全撤退しなければならない日が来て、完全撤退の日以後の居場所は自宅のみということになる。ところで、働く者にとって家でも、職場でもない第3の居場所、俗にサードプレイスが必要で、重要であると言われる。前者2つにおいて、ストレスをためたり、追い詰められたりしたときに、何の義務も責任もなく、心穏やかに過ごすことのできる場所が人には欠かせないということである。退職後は職場がなくなるので、自宅以外の居場所はセカンドプレイスということになる。

韓国版セカンドプレイス

高齢者にとってこそ「きょーよー」と「きょーいく」が大切ですよと言い、それは「教養」「教育」ではなく、「今日、用がある」「今日、行くところがある」であることはよく知られている。これは果たすべき役割・用事や社会的なつながりが、就労という強制的に行動を強いられる機会を失ったら、自らその機会・場を創出し、積極的に出かけていくことの重要性を説くフレーズである。

国もこれを認識し「通いの場」、つまり、高齢者のために自宅以外の居場所の創出を促している(介護予防・日常生活支援号総事業の一環)。厚労省が今年2月に公表した資料によれば、2022年度の「通いの場」の参加者(実人数)は約222万8千人、参加率は6.2%である。ちなみに都道府県別では大分県が最も参加率が高く15.2%である。

この高齢者のセカンドプレイスという点では韓国に一日の長がある。それが敬老堂と呼ばれる集会場である。これは韓国老人福祉法36条に法定されている老人余暇施設であり、国、地方公共団体は敬老堂の運営に必要な補助をすることができる旨の定めがおかれている。先の厚労省資料によれば「通いの場」は1か所につき65歳以上高齢者246人をカバーする計算になる一方、韓国敬老堂は136人に1か所の割合で設置されている(2022年12月31日現在、韓国内に68,180カ所)。また、日本の「通いの場」がもっぱら公民館や集会所、あるいは介護事業所の空きスペースを使っているのに対し、敬老堂は独立した建物であって、これが使用頻度を高めるのに大いに役立っている。さらに特筆すべきは4割という高い利用率と男性高齢者の参加が活発なことである。

国保新聞(2024年3月10日)によれば、高齢者が週150分以上の身体活動、週1回以上の交流などが介護予防効果を高め、何もしない高齢者と比べると要介護化リスクが相当程度低下するという。「通いの場」であれ、敬老堂であれ、そこに出かけて誰かと会って話すことは要介護化リスクを低下させるということである。

巧みな仕掛けとマネジメント

高齢者にとってセカンドプライスが存在することは本人の要介護化リスクを低減し、その家族にとっても効用は大きく、そして、国家的には介護費用の縮減につながる。そうわかっていても、家から出ようとしない高齢者が少なからずいる。個々人の生き方に干渉はできないし、嫌がる者を無理やり外に引き出すことも無理がある。しかし、セカンドプレイスの存在が本人、および周囲へ与える効果を考えると、なんとか呼び込みたい。

テレビでイタリアを紹介する番組を見ると老若男女がバールに集い、立ちながらエスプレッソを飲んでいる。高齢者はベンチに座って一杯のエスプレッソで新聞を読んだり、仲間とおしゃべりしている。日本ではまず、見られない光景である。一杯のコーヒーを飲みに出かけて、友人知人とおしゃべりするという仕掛けを考えて、まずはそこから「通いの場」を創出することは有効かもしれない。

政策目標を掲げ実現しようとすれば、巧みな仕掛けとそれを動かすマネジメントが不可欠である。高齢者のセカンドプレイスの創出、それは誰が担うのか? そして、どこが財政負担をするのか? 考えることが多い新年度である。

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片桐由喜(小樽商科大学商学部 教授)

◇◇片桐氏の掲載済コラム◇◇
「医療ドラマと現実 -絵になる救急医療-」【2024.1.9掲載】
「リケ女獲得合戦」【2023.9.26掲載】
「採用コスト」【2023.6.27掲載】
「三食治療付き光熱費込み」【2023.3.28掲載】

☞それ以前のコラムはこちらからご覧ください。

2024.04.16