自由な立場で意見表明を
先見創意の会

リケ女獲得合戦

片桐由喜 (小樽商科大学商学部 教授)

女性学生無用時代

いまから、およそ40年近く前、高校の女子同級生が工学部の研究室選択で土木系を希望したところ、その研究室の教授に「うちは女子はとらないから」と、いまなら完全アウトの一言で門前払いをされた。くだんの教授いわく、「フィールド先の現場に女子トイレ、更衣室、専用部屋がない」「いままで、1人も入れていない」等々の理由をのべたとのこと。その同級生は結局、建築学科に進み、今では1級建築士として活躍している。

あれから月日は流れ、今、理系の学部・学科、大学院は女性学生獲得に躍起になっている。いわゆる、リケ女を探し求めて日々、奮闘の毎日である。

リケ女よ、来たれ

理系の学部等に女子を一定数確保するために取られている典型的な手段は学部定員に女子枠を設けることである。医学部の地域枠と同種であり、目標達成のための優遇措置である。大学側からすると、効果の大きい手段であるが、学生たちはもろ手を挙げて評価しているふうでもない。女子学生側は「自分が女子枠で入学したと思われたらいやだ(だから、公表しないでほしい)」、男子学生側は「逆差別だ。合否は実力本位で決めるべきだ。」等々。

すそ野の学部で女性学生が少ないのだから、大学院は推して知るべしだし、当然の帰結として理系大学に女性教員は少ない。現在、あらゆる組織で適切なジェンダーバランスが求められる中、国立大学協会は2025年までに女性教員比率を国立理工系大学は14%以上とすべしとの目標値を設定した。実際は2021年現在、農学13.4%、理学10.1%、工学7.7%である(※注1) 。そこで目標値達成手段として教員公募の際に女性にしか応募を認めない方式をとる大学も現れている。

なぜリケ女よ、来たれなのか

1つには言うまでもなく、国の方針・政策に応じるためである。ジェンダーギャップ指数2023によれば、日本は146か国中、125位で過去最低である。この状況を解決するために国は数値目標を設定し、官民問わず組織・機関にバランスの取れた男女比率を課す。

理系の教育機関、職場の女性比率は低いが、もっと低いのが政財界や一般企業の上級職に占める女性の割合である。そして、後者よりも前者の女性比率を上げる手段が上記のとおり豊富で、かつ、確実である。効果の出やすいところから手を付けるというのは政策実現のための常套手段である。

もう1つは、少子化で大学受験者数が減少する中、優秀な学生で定員を確保したいという各大学の野望である。

日本では男子は理系、女性は文系という考えが強く浸透していて、それが女子学生をして最初から理科系科目を毛嫌いさせる、あるいは、不得意意識を持たせる遠因となっている。女子学生の理系科目に対する潜在能力に着目し、出前講義と称して中学校、高校にリクルート活動をする理系大学・学部も少なくない。

こうして、女子学生を理系に目覚めさせ、大学受験者数という学生の母数を増やすことで優秀な学生を得ようという考えである。

リケ女効果

リケ女が増え、社会のあらゆる業態業種に女性が進出し、人手不足が解消したなら、長時間労働が是正されて、無理と思ってほとんどあきらめている、この日本社会のワークライフバランスを実現できると期待もされている。また、人手不足感が強くて上がる一方の生産コストが落ち着くことも考えられる。リケ女効果は絶大である。

とはいえ、一足飛びに変わらないのがこの世の中である。変化を加速させるには、上述の出前講義のように中高校生の目と脳にリケ女活躍の光景を焼き付けるのがいいかもしれない。たとえば、高層ビルでヘルメットをかぶって、てきぱきと現場監督をする女性の動画を見せると、「かっこいい! 私も将来、あんなふうにビルを造る人になりたい」と思う女子小中高校生が増えるはず(と思いたい)。

といって、女子高校生がこぞって、理系大学・学部を目指すと本学のような社会科学系単科大学は存亡の危機となる。なにごともバランスが大切である。

[参照]※注1 『国立大学における男女共同参画推進の実施に関する第18回追跡調査報告書(2022年1月25日)[国立大学協会]

ーー
片桐由喜(小樽商科大学商学部 教授)

◇◇片桐氏の掲載済コラム◇◇
「採用コスト」【2023.6.27掲載】
「三食治療付き光熱費込み」【2023.3.28掲載】
「入院雑記」【2022.11.22掲載】
「クールビズvs ビジネスドレスコード」【2022.8.16掲載】

☞それ以前のコラムはこちらからご覧ください。

2023.09.26