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先見創意の会

クールビズvs ビジネスドレスコード

片桐由喜 (小樽商科大学商学部 教授)

はじめに

年々、夏の暑さが厳しくなっている。今夏も本州列島は猛暑日が続き、最高気温が40度を超えた地域もある。そこで今年8月2日、日本気象協会は最高気温が40℃以上の日を「酷暑日」、最低気温が30℃以上の夜を「超熱帯夜」と呼称すると発表した(同協会HPより)。このような暑さの中、勤労善男善女の救いは職場で奨励されているクールビズである。盛んに奨励されるクールビズであるが、広く深く浸透しきっていない。

クールビズとは

環境省はクールビズを「地球温暖化対策の一環として、2005年度から政府が提唱する、過度な冷房に頼らず様々な工夫をして夏を快適に過ごすライフスタイル」と定義する。この典型的なライフスタイルが軽装、すなわち、ノージャケット、ノーネクタイである。

そして、環境省はその効用として、①健康によい(軽装なので室温を高めに設定できる=外気温との差異が小さくなり、体への負荷が減少)、②お財布に優しい(過度の冷房使用を抑制することで電気代を節約)、そして、③脱炭素社会への一助となる(冷房控えめによる省エネ)を挙げる。

これだけ良いことづくめなのにテレビのニュース番組では男性アナウンサーのほとんどがジャケットを着ている。猛暑のなか、ネクタイを締めたスーツ姿の男性が街中を歩く姿がテレビに映っていることもある。先日、筆者が出席した会議では、私を含め委員全員がジャケットを着用していた。

私がジャケットを着て出席したのは冷房対策である。上記のような会議において、出席者の大半は男性で、彼らはほぼ100%、スーツ着用である。会議の主催者はそれを見越して冷房温度を低めに設定する。そんな会場に「上着無し、半袖ブラウス」スタイルで出席しようものなら、30分もたつ頃には寒くて風邪をひきそうになるからである。

抵抗勢力

健康、家計、環境のすべてに良い効果しかないクールビズが、20年近くたっても広く深く浸透しない背景にはなにがあるのか。
とあるビジネス支援サイトによると、「真夏でも営業職はジャケットの着用が基本。これはビジネスシーンにおけるワイシャツが下着と同義に考えられているためです。すなわちジャケットを着ないと、下着姿のままお客様と会っているという意味」「フォーマルなビジネスシーンでは長袖が基本。そのため半袖のワイシャツも、営業職にとってはNGです。営業職の場合、ジャケットと同じくネクタイを着用した正装が基本」なのだそうである。

ワイシャツが下着扱いであるかは議論のあるところであろうが、いずれにしろ、このビジネス界におけるドレスコードがクールビズ推進派の抵抗勢力といってよいだろう。しかし、この呪縛(!)ともいえるドレスコードは、傍から見て、けっしてエレガントでも紳士的でもなく、たんに暑苦しいだけである。

仕事服とクールビズ

職場や取引先へ遊びに行く人はいない。仕事、端的にいえば稼ぎに行くのである。この場合、常識、あるいは、マナーとして相手に不快感を与えず、かつ、信頼を得ることができるような服装、格好が求められる。具体的には清潔であること、きちんとしていることなどであろう。このような服装がノージャケット、ノーネクタイの格好では達成できないということはないはずである。

そもそも、省エネが叫ばれ、さらには石油価格上昇、電気代値上げがいわれる今、1枚ジャケットを脱いで冷房設定温度を1度上げることは経済合理性にかなう行動であろう。職場環境は夏でもスーツを着る男性を中心に考えられてきた。一方、夏の女性の服装は基本的にクールビズである。それゆえ女性社員に冷房病が多い。もっとも、男女平等だ、あるいはSDGsだ、ゼロカーボンアクションだと大上段に、声高に唱える必要はない。まずは「夏は涼しい格好」である。

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片桐由喜(小樽商科大学商学部 教授)

◇◇片桐氏の掲載済コラム◇◇
「消費行動は投票行動」【2022.5.2掲載】
「年賀状と夫婦別姓」【2022.1.18掲載】
「高齢店子、お断り」【2021.10.12掲載】
「脱託老所 -何がしたくて、何ができるのか?-」【2021.6.1掲載】

☞それ以前のコラムはこちらからご覧ください。

2022.08.16