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先見創意の会

ChatGPTは漫才ロボットだ!

坂本冬彦 人材創造戦略研究所 代表

緒方正象 日本医療総合研究所 主任研究員

1. 話題のチャットAI(人工知能)に登録しチャレンジしてみた!

皆さんはChatGPTをご存じだろうか。最近話題になっているので、名称をご存じの方は多いだろう。ChatGPTは、2015年にアメリカで設立した人工知能(AI)を開発する企業「Open AI」が開発した、自動応答チャット生成AIである。

AIを利用した自動応答チャットはこれまでにも存在したが、ChatGPTは高度なAI技術により、より人間のような自然な会話ができるとして今注目を集めている。日本語に対応していることも日本でヒットしている理由の一つだろう。

利用するには会員登録が必要だ。なぜか会員登録サイト には日本語版が用意されていないので、英語が苦手だとほんの少しだけ戸惑うかもしれない。料金は無料プランが用意されており手軽に始めることができる。有料版のほうが快適に利用できるようだが、チャットの応答内容のクオリティに大きな差異はないらしい。

利用に至る手続きは簡単だが、私の周りで利用している人は意外と少数だ。理由は様々だが、登録や利用することに不安や懸念があるらしい。確かにChatGPTに対するネガティブな話は報道やネット記事で見かける。

だが、時代の最先端技術に手軽に触れられる機会はそうはない。ChatGPTユーザーとしての先駆者であった勉強家の友人からの強力な刺激を受けたこともあり、物は試しでChatGPTの世界に足を踏み入れてみた。

2. ベストセラーにとんでもない答えを返してきた!

ChatGPTではチャット欄に質問や相談内容を入力して送信すると、ほんの少しの時間をおいて回答が返ってくる。噂通りその回答は人間が考えたかのような流暢な日本語だ。実に素晴らしい。では、回答の質はどうだろうか。

試しに、私坂本が中心執筆を務めた協和発酵工業著『人事屋が書いた経理の本』 の特徴は何かと尋ねてみた。すると、あろうことか存在しない著者が書いた本として紹介してきたのだ。間違った情報に基づいて終始間違った説明を堂々と展開する。何も知らない人は、流暢な日本語で書かれた内容をそのままそっくり信じてしまうだろう。まことしやかなとんでもない回答だ。

私事で恐縮だが本書は40万部を超えるベストセラーだ。WEB上で検索すれば、正確な情報がたくさん溢れている。ChatGPTのサイトによると、ChatGPT は、2021年までに収集されたWEB上にある570GBの処理されたテキストデータと、ユーザーのフィードバックによる継続的学習を基に回答しているらしい。であれば尚更情報に誤りがあることに疑問が湧く。

そこで情報に間違いがあることを指摘してみた。すると、「間違いがある場合は申し訳ありません」との謝罪のあとに、「検索エンジンではまだ情報が十分に整理されていない可能性があります」と言い訳をし、「複数の信頼できる情報源を参照することが重要です」と責任放棄したのだ。これでは承服できない。

3. 学習し軌道修正する優秀AI!

そこで、「この回答は一般論です。なぜあなたは質問している本にたくさんの公開読者情報があるのにそれを学習しないで回答するのですか?」と追及してみた。すると、「申し訳ありません」の謝罪のあと、「私の学習モデルには、すべての書籍や情報が含まれているわけではありません」とまた言い訳する。

しかしその後が違った。「ただし、協和発酵工業著の『人事屋が書いた経理の本』は、経理を専門としていない人でも理解しやすく書かれていると評価されており、実務に役立つ知識が網羅されていることが特徴です。図解やイラストを多用しており、初学者にもわかりやすい内容となっています。・・・」と、最初の回答から視点を変えて、本の内容について的確なコメントをしたのだ。

さらに、「あなたが軌道修正し学習したことに感心した」と伝えると、書籍に関する情報を追加するとともに「ぜひ一度手に取ってみてはいかがでしょうか」と購入まで勧めてきたのだ。ここまで返しが上手だと、ついついAIが応答していることを忘れてしまう。回答に困ると定型文を繰り返す従来の自動応答チャットとはやはりひと味違うようだ。

さらに私は追加の質問をした。「私とのやりとりであなたが学習した本書の特徴把握は次回以降も保持されるのですか? それとも振り出しに戻るのでしょうか?」と。すると「私は以前のやりとりで認識を深めた協和発酵工業著『人事屋が書いた経理の本』の内容を長期に保持し次回以降もその情報をもとに適切な回答を提供します」「私が提供できる情報には限界がありますが、私は常に学習を続けお客様のために最善を尽くします。何かお困りのことがあればいつでもお知らせください」と答えてきた。謙虚な一面も持ち合わせている点も付け加えておこう。

4. 【感性】こそ人間とAIの違い

ChatGPTは的確な良い答えを返してくれる一方、堂々と嘘をついたりもする。普通であれば情報に嘘や間違いがあれば怒るところだが、むしろそれを見つけるのが楽しく、見つけてはツッコミを入れてしまう。すると学習し作戦を変えて反応してくる。まるで漫才ロボット(ボケ担当)を相手にしているようだ。とにかく質問するとなんでも即時学習し答えを返してくるのでやり取りが実に楽しい。

いろいろと試して分かったことは、(1)質問によって回答の質が変わるので、質問を考える力が大事、(2)回答の真偽・優劣を見抜く力が必要、(3)学習していない情報は答えられない(最新の情報、現場情報、言語化できない独自の個人の暗黙知は知らない)、(4)たくさんある情報の中から“何を情報として取り出し学習するか”の【感性】こそが人間と人工知能の違いの根源であること、(5)やりとりは長期記憶され活用されるので著作権や個人情報に係る情報は留意が必要、だ。優秀、しかし欠陥弱点がある。それでも学習し答えようとする。人間っぽい、それがChatGPTの魅力なのかもしれない。

ChatGPTのような対話型AIについては、その性能を危険視して開発停止の声が上がっていたが、今ではGoogleやAmazonなど名だたる企業が開発に注力している。日本でも行政や民間企業がChatGPTを利用したサービス導入を検討している。

AI導入でホワイトカラーの仕事が奪われることを懸念する話も聞くが、重要なのは受け身側になるのではなく、使う側としてAIを駆使する側になることだ。そのためには新しいスキルや知識を積極的に取り入れて、常にリスキリングしていくことが重要になってくるだろう。

ただ、デジタル後進国の日本、特に行政が早々に飛びついていることには一抹の不安を感じている。AIにツッコミを入れられることのないように、使う側として手綱をしっかりと握ってくれることを切に願う。
 
※本稿は、坂本の体験をもとに、坂本・緒方で討議し共同執筆した。
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坂本冬彦(人材創造戦略研究所 代表)
緒方正象(株式会社日本医療総合研究所 主任研究員)

◇◇緒方氏の掲載済コラム◇◇
◆「暗号資産(仮想通貨)の正体」【2023.1.24掲載】

2023.05.23