自由な立場で意見表明を
先見創意の会

台湾からの非戦闘員退避活動(NEO)の準備が必要だ

榊原智 産経新聞 論説委員長

岸田文雄首相は、新型コロナウイルス問題を論じる際、「危機管理の要諦は、最悪の事態を想定することだ」と語ってきた。

台湾情勢への対応にもあてはめるべき言葉だろう。

岸田首相とバイデン米大統領は1月21日夜のオンライン方式による首脳会談で、「台湾海峡の平和と安定の重要性」を確認した。

日米両政府は、昨年4月16日の首脳会談、昨年3月16日と今年1月7日の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)でも同様の確認をしている。中国の習近平政権による台湾併呑のたくらみを、それだけ懸念しているということだ。

外交努力や防衛力増強が急務だが、取り組むべき課題はほかにもある。

その一つが、台湾有事が起きたり、台湾海峡をめぐる緊張が極度に高まったりする場合に備え、台湾から邦人などを退避させる準備である。台湾からの非戦闘員退避活動(作戦)(NEO。Non-combatant Evacuation Operation)だ。

台湾有事になれば、台湾本島は中国軍による弾道ミサイル、巡航ミサイル攻撃や爆撃にさらされる。上陸、降下してくる中国軍や、中国の潜伏工作員による攻撃で陸戦になるかもしれない。

台湾で暮らす邦人は、約1万9千人(2021年9月現在)だ。新型コロナウイルス禍前は約2万5千人(19年10月現在)いた。コロナが下火になれば居住者は再び2万人を超えるだろう。観光客も訪れることになる。

アフガニスタンのカブール空港を舞台に昨年夏、各国によるNEOが展開されたが、日本は後れを取った。アフガニスタン人協力者やその家族を置き去りにしてしまった痛恨事である。

台湾にいる邦人の数は、アフガニスタンの救出対象者と比べ桁違いに多いが、救出ミッションの失敗は許されない。

核・ミサイル問題をめぐって北朝鮮情勢が緊迫した際、韓国で暮らす邦人を対象としたNEOが課題になった。民主党の菅直人政権ですら、邦人を救い出すために韓国政府との協議が必要だと表明したことがあった。

だが、韓国政府は日本の自衛隊が自国の領域に入ることを嫌ったため、日韓の協議は全く進まなかった。

台湾は反日的な韓国とは違う。日本がNEOをめぐる協議を求めれば拒みはしないはずだ。

日台協議や台湾NEOの準備に中国政府は反発するかもしれない。そうだとしても人命に関わる。問題の放置は許されない。

ちなみに、上海など中国大陸にも台湾以上の数の邦人がいる。だが、中国政府が自衛隊によるNEOを認めるはずもない。それどころか、邦人を「人質」にしかねない。台湾海峡の緊張が高まれば、在中邦人は民航機が飛んでいる間に急ぎ帰国するしかない。

その中国と比べても、台湾有事の際に主な戦場となるであろう台湾本島からのNEOの優先度は高い。

アフガニスタン以上に台湾NEOには困難が伴う。救い出すべき邦人の数が多いのにとどまらない。

まず、台湾有事となれば地理的に極めて近い日本の南西諸島、すなわち沖縄県は間を置かずに戦域となる。有事になる前の段階から、自衛隊は有事に備え、全力を挙げねばならない。有事になれば、攻撃の的ととなる軍や自衛隊と、民間人がともに行動することは極めて望ましくない。自衛隊だけにNEOを任せておいていいのか、という問題はある。

次に、南西諸島、とくに先島諸島に暮らす国民を避難させる必要も出てくる。台湾NEOと先島諸島にいる国民の避難(国民保護活動)は同時並行のミッションになる可能性が高い。

最後に、台湾に暮らす外国人は約78万人いる。多くの国々が、台湾の隣に位置する日本に救いを求めてくるだろう。人道上の理由から、日本は何もしないでは済まされない。現行の自衛隊法でも、現地に派遣された輸送機に余裕があれば人道上の理由から、日本と直接関係のない外国人であっても乗せることは可能だ。

政府与党は通常国会で、海外で緊急事態が起きる際の邦人輸送について定めた自衛隊法を改正する方針だ。邦人と結婚している外国人や、日本大使館や国際協力機構(JICA)に勤務する外国人やその家族だけでも輸送できるように改める。これらは、台湾NEOでも有効であるため、確実に改正してもらいたい。

岸田首相は、外務省や防衛省自衛隊、国土交通省、総務省など関係省庁に、日台協議を含め台湾NEOの準備を進めるよう指示しなければならない。

ーー
榊原 智(産経新聞論説副委員長)

◇◇榊原智氏の掲載済コラム◇◇
◆「核兵器禁止条約は日本国民を守らない」【2021.11.2掲載】
◆「『人種平等』へ動いた日本の歴史につらなった首相の訪米」【2021.6.15掲載】
◆「中国政府によるウイグル人女性への性暴力問題を取り上げよ」【2021.2.16掲載】
◆「日米豪印(クアッド)は台湾と協力を」【2020年11月10日掲載】

☞それ以前のコラムはこちらからご覧下さい。

2022.02.01