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先見創意の会

2024年高まる医の法的リスク

中村十念・緒方正象 [日本医療総合研究所 取締役社長・主席研究員]

1. 保釈と人質

広辞苑で「保釈」をひくと次のように書かれている。

「一定の保証金を納付させて未決拘留中の被告人を釈放すること。原則として裁判所は保釈の請求があれば許さなければならない(権利保釈)。裁判所は職権で許すこともできる。起訴前拘留については認められない。」

一方で、日本には「人質司法」という悪習慣がある。容疑を否認し続けると保釈請求はほとんど無視され、身柄拘束が延々と続くという裁判前の悪意ある抑止である。無言の脅迫である。

年末に判決が下された「大川原化工機事件」ほどこの悪習慣による人権侵害ぶりを見せつけられたケースはない。製造された噴霧器が武器に当たるか否かが争われた。

2人の被告は6回の保釈請求を全く認められず、拘留は11ヵ月にも及んだ。

あろうことか、もう1人の被告は胃がんであったにもかかわらず拘留され、十分な治療が受けられず、病気が進行した段階で拘留執行停止にはなったものの、間もなく死亡したという。拷問にも等しい。

結局、検察は起訴を断念した。当然のこととして未決拘留中の不当を責められ、国家賠償の請求訴訟となり、2023年末に国の敗訴となった。

2. 違法捜査

警察や検察の仕事は、犯人および犯罪についての証拠を発見・収集し、裁判の提起・維持を図ることである。

今回の「大川原化工機事件」は、証拠の発見・収集の作業に捏造があり得ることをクッキリと示した。

その原因は犯罪検挙に対する捜査員の熱意と思い込みにあるらしい。人質司法と違法捜査の対価は高く、裁判の結果は1.6億円の国家賠償となった。

このケースのような再発防止は容易ではない。捜査員の熱意は咎める訳にいかないし、熱意の延長線としての執念や思い込みも起こり得る。「権利保釈」の考え方を浸透させるしかない。しかし、その防止のためには明治維新以来染みついてきた犯罪捜査組織の文化改革が必要だ。そして、それは簡単ではない。

3. 2024年 医療界のコンプライアンスリスク

2024年の医療界のコンプライアンスリスクは確実に増大する。4月から働き方改革と称して、医療機関での時間外労働管理が本格的に義務付けられるからだ。

その先触れとなるような事件が、兵庫県で起こっている。

甲南医療センター(神戸市東灘区)の消化器内科の専攻医だった医師が22年5月に自殺した。西宮労働基準監督署(兵庫県)は、自殺前の100日連続勤務、月200時間超の時間外労働で「極度の長時間労働により精神障害を発症し自殺した」などとして、23年6月に労災認定した。さらに同基準監督署は同年12月に、労働基準法違反容疑で、院長と上司の2人と、運営法人「甲南会」を神戸地検に書類送検した。

4. 病院雇用リスクマネジメントの論点

病院の雇用システムは他の業界よりも複雑である。労働法と医療法の双方の制約が絡み合うためだ。細かく論じる暇はないが、次の表のように整理される。

この表から言える留意事項は次の4点である。
(1) 医師も含めて管理監督職の位置付けを厳密に考えること。
(2) 医師との年俸契約書の作成を精微に行うこと。
(3) 医師の宿直の「断続的な宿直又は日直勤務許可申請書」について考慮すること。
(4) 三六協定を締結すること。

なお、労働と医療の双方に強い弁護士に相談する事例も多くなると思われる。そのような弁護士との日頃からの情報交換を欠かさないことである。

以上見てきたように、問題が起こって起訴されたら人生ジエンドとなりかねない。「人の命と残業とどちらが大切だ」などと医者らしく考えることも必要だが、組織や職員を守るため経営者として、リスクマネジメントの観点から考えることも必要であろう。

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中村十念・緒方正象[日本医療総合研究所 取締役社長・主席研究員]

2024.01.11