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先見創意の会

医師の宿日直(当直)について

髙山 烈 (弁護士)

1.はじめに

2024年4月1日、いよいよ医師の時間外労働の上限規制が適用される。この点、宿日直(当直)については、適用除外許可を得ていれば時間外労働の上限規制を受けないことになるため注目が集まっている。そこで、あらためて医師の宿日直に関する制度を確認しておきたい。

2.宿日直の取り扱い

日本医師会の「医師の働き方検討委員会」によれば、「宿日直勤務」とは、一般には使用者の命令によって一定の場所に拘束され、緊急電話の受理、外来者の対応、盗難の予防等の特殊業務に従事するもので、夜間にわたり宿泊を要するものを宿直といい、その時間帯が主として昼間であるものを日直というとされている。なお、同委員会によると、「当直」とは宿日直及び時間外労働を含めた総称であり、夜勤を含めて用いている施設もあるとのことである。

(1) 宿日直勤務の根拠
 医療法16条本文は、「医業を行う病院の管理者は、病院に医師を宿直させなければならない。」と規定している。すなわち、病院が医師を宿直させることは法律上の義務ということである。
なお、同条ただし書には、例外的に宿直をさせなくてよい場合の定めがあるが、同規定は平成30年4月1日に改正されている(後述)。

(2) 医療機関に係る許可基準
労働基準法(労基法)41条3号は、「監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの」については労働時間、休憩及び休日に関する規定を適用しないと定めている。
そこで、宿日直勤務について労働時間等の規定の適用除外を受けるためには、医療機関は「断続的な宿直又は日直勤務許可申請書」を所轄の労基署に提出し、許可を得る必要がある。
平成14年3月19日厚労省通達は、医療機関に係る許可基準を、概要、次のとおりとしている。
① 勤務の態様
常態としてほとんど労働する必要がない勤務のみを認めるものであり、病室の定時巡回、少数の要注意患者の検脈、検温等の特殊な措置を要しない軽度の、又は短時間の業務を行うことを目的とするものに限ること。したがって、原則として、通常の労働の継続は認められないが、救急医療等を行うことが稀にあっても、一般的にみて睡眠が充分とりうるものであれば差し支えないこと。なお、救急医療等の通常の労働を行った場合、労基法37条に基づく割増賃金を支払う必要があること。
② 睡眠時間の確保等
宿直勤務については、相当の睡眠設備を設置しなければならないこと。また、夜間に充分な睡眠時間が確保されなければならないこと。
③ 宿日直の回数
宿直勤務は、週1回、日直勤務は月1回を限度とすること。
④ 宿日直勤務手当
宿日直勤務手当は、職種毎に、宿日直勤務に就く労働者の賃金の1人1日平均額の3分の1を下らないこと。

また、同許可基準は、宿日直勤務中に救急患者の対応等通常の労働が行われる場合の取扱いについて、次のとおりとしている。
① 宿日直勤務中に通常の労働が突発的に行われる場合
宿日直勤務中に救急患者への対応等の通常の労働が突発的に行われることがあるものの、夜間に充分な睡眠時間が確保できる場合には、宿日直勤務として対応することが可能であるが、その突発的に行われた労働に対しては、次のような取扱いを行う必要がある。
ア 労基法37条に定める割増賃金を支払うこと
イ 労基法36条に定める時間外労働・休日労働に関する労使協定の締結・届出が行われていない場合には、同法33条に定める非常災害時の理由による労働時間の延長・休日労働届を所轄労働基準監督署長に届け出ること
② 宿日直勤務中に通常の労働が頻繁に行われる場合
宿日直勤務中に救急患者の対応等が頻繁に行われ、夜間に充分な睡眠時間が確保できないなど常態として昼間と同様の勤務に従事することとなる場合には、たとえ上記①ア、イの対応を行っていたとしても、(2)の宿日直勤務の許可基準に定められた事項に適合しない労働実態であることから、宿日直勤務で対応することはできない。また、現に宿日直勤務の許可を受けている場合には、その許可が取り消されることになり、交代制を導入するなど業務執行体制を見直す必要があるので、注意が必要である。

(3)改正医療法16条
平成30年4月1日に施行された改正医療法16条は、次のとおり規定している。

「医業を行う病院の管理者は、病院に医師を宿直させなければならない。ただし、当該病院の医師が当該病院に隣接した場所に待機する場合その他当該病院の入院患者の病状が急変した場合においても当該病院の医師が速やかに診療を行う体制が確保されている場合として厚生労働省令で定める場合は、この限りではない。」

同改正は、病院が入院患者の急変時に適切な対応がとれるよう、迅速な診療体制確保を求めることを明確化することを目的とするものである。

同年3月22日の厚労省施行通知によれば、ただし書に当たる場合は次のとおりとされている。
① 隣接した場所に待機する場合
ア 「隣接した場所」の定義
隣接した場所とは、その場所が事実上当該病院の敷地と同一であると認められる場合であり、次の(ア)又は(イ)いずれかの場所を指すこととする。  
(ア) 同一敷地内にある施設(住居等)
(イ) 敷地外にあるが隣接した場所にある施設(医療機関に併設した老人保健施設等)※公道等を挟んで隣接している場合も可とする。
イ 「待機する」の定義
待機するとは、患者の急変時に速やかに緊急治療を行えるよう、備えていることを指すこととする。
② ①に該当しない場合であっても速やかに診療が行える体制が確保されているものとして当該病院の所在地の都道府県知事が認める際の具体的な基準は次のア~エのすべてを満たすものとする。
ア 入院患者の病状が急変した場合に、当該病院の看護師等があらかじめ定められた医師へ連絡をする体制が常時確保されていること。
イ 入院患者の病状が急変した場合に、当該医師が当該病院からの連絡を常時受けられること。
ウ 当該医師が速やかに当該病院に駆けつけられる場所にいること。特別の事情があって、速やかに駆けつけられない場合においても、少なくとも速やかに電話等で看護師等に診療に関する適切な指示を出せること。
エ 当該医師が適切な診療が行える状態であること。当該医師は適切な診療ができないおそれがある状態で診療を行ってはならない。
なお、都道府県知事が認めた後に上記ア~エのいずれかの事項に変更があった場合は、再度都道府県知事の確認を要することとする。

3 宿日直勤務について労基法上の「労働時間」に含むとした事例(奈良県(医師時間外手当)事件・最高裁平成25年2月12日決定)

宿日直勤務について、前述した適用除外を認めず、労基法上の「労働時間」に含むとする一方で、宅直勤務(オンコール)の待機時間については「労働時間」に含まれないとした判例である。以下、概要を紹介する。

(1)事案の概要
県立病院の産婦人科に勤務する医師らが、宿日直勤務及び宅直勤務(オンコール)は時間外・休日勤務であるのに割増賃金が支払われていないとして、県立病院に対し、労働基準法37条に基づく割増賃金の支払を求めた事案である。
同病院では、救急の受け入れ対応、また入院患者の夜間の出産等があることから宿直勤務として医師1名が勤務することになっていた。また、救急と出産手術が重なることがあるため、医師たちが自主的に交代で宅直当番を決め、宿直勤務担当医師が一人で処置を行うことが困難と判断した場合、宅直当番の医師を呼び出すこととなっていた。宅直医師は自宅にいることが多いが、待機場所が指定されているわけではなかった。
同病院の内規では宅直制度について触れられておらず、宅直当番について、産婦人科医師が同病院に届け出る等はしていなかった。

(2)裁判所の判断
 ① 宿日直勤務について
労基法41条3号の「断続的労働」に該当する宿日直勤務につき、2(2)に記載した「医療機関に係る許可基準」を示したうえ、同病院の産婦人科医師らは「産婦人科という特質上、宿日直時間に分娩への対応という本来業務も行っているが、分娩の性質上、宿日直時間内にこれが行われることは当然に予想され、現に、その回数は少なくないこと、分娩の中には帝王切開術の実施を含む異常分娩も含まれ、分娩・新生児・異常分娩治療も行っているほか、救急医療を行うこともまれとはいえず、また、これらの業務はすべて1名の宿日直医師が行わなければならないこと、その結果、宿日直勤務時間中の約4分の1の時間は外来救急患者への処置全般及び入院患者にかかる手術室を利用しての緊急手術等の通常業務に従事していたと推認されること、これらの実態からすれば、当該医師らのした宿日直勤務が常態としてほとんど労働する必要がない勤務であったということはできない」とし、本件宿日直勤務が労働基準法上の「労働時間」に該当するものとして、割増賃金の支払請求を認めた。
 ② 宅直勤務(オンコール)について
本件の宅直勤務が、割増賃金の請求できる労働基準法上の労働時間といえるか否かは、宅直勤務時間が「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」に当たるか否かによるとしたうえ、「本件の宅直勤務制度は、救急外来患者も多い同病院における産婦人科医師の需要の高さに比べて、5名しか産婦人科医師がいないという現実の医師不足を補うために、産婦人科医師の間で構築されたものである。しかしながら、原告らも認めるように宅直勤務は同病院の産婦人科医師の間の自主的な取り決めにすぎず、同病院の内規にも定めはなく、宅直当番も産婦人科医師が決め、同病院には届け出ておらず、宿日直医師が宅直医師に連絡をとり応援要請しているものであって、同病院がこれを命じていたことを示す証拠はない。また、宅直当番の医師は自宅にいることが多いが、これも事実上のものであり、待機場所が定められているわけではない。このような本件の事実関係の下では、本件の宅直勤務時間において、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていた、つまり、同病院の指揮命令下にあったとは認められない」などとして、「宅直勤務の時間は、割増賃金を請求できる労働時間とはいえない」とした。

(3)コメント
本判例は、宿日直勤務については労基法上の「労働時間」に該当するとした一方で、宅直勤務(オンコール)については「労働時間」性を否定した。ポイントは、「宿日直勤務」や「宅直勤務」という名称から形式的に判断するのではなく、前者については厚労省通達における「医療機関に係る許可基準」に照らして「断続的労働」に該当するか否か、後者については「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」に当たるか否かという点を実質的に検討し、「労働時間」性を判断している点である。したがって、仮に「宅直勤務」や「オンコール」という名称の制度であっても、本判例の事案と違い、病院の内規になっていたり、待機場所が指定されているような場合は、使用者の指揮命令下に置かれている時間に該当するものとして「労働時間」性が認められる可能性があることに注意が必要である。

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高山 烈(弁護士)

◇◇高山烈氏の掲載済コラム◇◇
「マイナンバーカードと健康保険証の一体化」【2022.12.02掲載】
「『医師の働き方改革』実施に向けて」【2022.7.7掲載】
「ポストコロナの労働問題」【2021.4.1掲載】

2023.12.14