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先見創意の会

新型コロナウイルス感染症による財団法人の危機 ~財団法人の2期連続純資産額300万円未満による解散~

石原博行 弁護士

問題の所在

財団法人には、注意すべき法規制がある。

それは、財団法人が、ある事業年度及びその翌事業年度において、貸借対照表上の純資産額がいずれも300万円未満となった場合、当該翌事業年度に関する定時評議員会の終結時に、法人が当然に解散するとの規制である(純資産額規制 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第202条第2項)。

財団法人は、一定規模の財産それ自体に法人格を付与する制度である。その特質ゆえ、設立時、設立者が300万円以上の財産を拠出する必要があり、法人の「存立中においても一定規模の財産の保持義務を課すことが相当である」(※注1) との趣旨から、純資産額規制が定められている。

財団法人は、解散すると、清算手続に入り、「清算の目的の範囲内」でしか存続できない。その後、現務(解散前の業務の後始末をつけること(※注2) )の結了、債権の取立て、債務の弁済、残余財産の引渡し等の清算事務が終了するなどし、清算が結了すれば、法人格が消滅となる。このように、財団法人は、解散すると、法人格消滅に向けて清算を進めなければならない。

医療機関を開設・運営する財団法人も例に漏れず、解散となった場合、そう遠くない時期に診療業務を終了し、廃業せざるを得ない。病院等を開設する一般財団法人及び公益財団法人は全国に200程度存在するといわれる(※注3)

このような財団法人の中には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で収支が悪化し、令和2年の事業年度において、純資産額が300万円未満となったものが一定数存在すると思われる。本稿執筆時点もなお、新型コロナウイルス感染症は収束に至っておらず、令和3年度の事業年度も、連続して純資産額が300万円未満となる財団法人の出現が懸念される。

人類に対しては、ワクチンの予防接種など、対処法が徐々に普及し始めているが、新型コロナウイルス感染症により経営に甚大な影響を受けている財団法人に対しても、解散を回避すべく、何らかの処方せんが必要である。

以下では、医療機関を開設・運営する財団法人に焦点を絞り、純資産額規制への対処法を紹介したい(なお、医療機関を開設・運営する財団法人以外の財団法人においても、同様の問題に対処するうえで、本稿のうち参考になる部分があると思われる。)。

現行法下で考えられる処方せん

本来、新型コロナウイルス感染症のような深刻な社会的要因による緊急事態に対しては、解散の猶予・延長など臨時的措置を時限立法として講ずるのが望ましい。

しかし、関連団体の積極的な働きかけ(※注4) にもかかわらず、本稿執筆時点においても、立法府の動きは耳にしない。

もっとも、事態は待ったなしであり、現行法下で、何らかの処方せんを考えるしかない。

まずは、収支回復までの間、何らかの方法で純資産額300万円超を図る、いわば対症療法が考えられる。例えば、財団法人に含み益ある土地等があれば、当該土地等を売却し、売却益の計上により、純資産額300万円超を図る手法などが考えられる(※注5) 。詳細は、税理士、顧問会計士等に相談されたい。

もっとも、資産等の状況によっては、全ての財団法人において、前述のような対症療法を実施できるわけではない。

そこで、原因療法(抜本的治療)として、純資産額規制から脱すべく、財団法人を別法人化することが考えられる。

別法人化への具体的なスキームとしては、例えば、
・医療法人化スキーム
①新たに医療法人A(社団または財団)を設立する。
②既存の財団法人Bが、医療法人Aに対し、医療機関に関する事業を譲渡する(負債も引き継ぐ)。財団法人Bはその後解散する。

・事業譲渡スキーム
①新たに社団法人Aを設立する。
②既存の財団法人Bが、社団法人Aに対し、医療機関に関する事業を譲渡する。財団法人Bはその後解散する。

・新設合併スキーム
①新たに社団法人Aを設立する。
②社団法人Aと既存の財団法人Bとを合併させて新たな社団法人Cを設立する。この新設合併により、社団法人Aと財団法人Bは消滅し、社団法人Cが医療機関に関する事業を承継する。

・吸収合併スキーム
①新たに社団法人Aを設立する。
②社団法人Aに、既存の財団法人Bを吸収させて合併する。この吸収合併により、財団法人Bは消滅し、社団法人Aが医療機関に関する事業を承継する。
などが考えられる。

いずれのスキームを用いるかは、各財団法人の具体的事情を踏まえ、個別に判断されるべきだが、一般論としては、吸収合併スキームを勧めたい。

というのも、医療法人化スキームは、医療法人設立認可に際して厳しい財政面の審査が予想され、また課税上の負担(消費税、不動産譲受に伴う不動産取得税など)も軽くないなどの短所がある。事業譲渡スキームも、個々の譲渡財産ごとに移転手続を要する(労働契約の移転には各労働者の同意が必要)など手間が掛かり、また課税上の負担(消費税、不動産譲渡への不動産取得税など)も軽くないなどの短所がある。これに対し、新設合併スキームと吸収合併スキームでは、消滅法人の財産・権利義務・契約上の地位等を存続法人が包括承継するため、個々の財産・権利義務・地位毎に移転手続は不要である。また、事業譲渡と異なり、消費税や不動産取得税も課されない。新設合併スキームと吸収合併スキームとの間にあまり大きな差はないと考えられるが、単純に、設立する法人が、前者は2つ、後者は1つであることからすると、吸収合併スキームは要する手間などが少ないのではないかと思われる。なお、吸収合併スキームも良いことだけではない。事業譲渡の場合よりも低額とはいえ、不動産の移転登記の際には登録免許税がかかるなどがある。

吸収合併スキームについて

吸収合併スキームには、慎重を期して、少なくとも5~6か月を要すると考えた方がよい。以下、手続の概要を3段階に分けて記す。

Ⅰ.事前準備
まず、行政機関、債権者(取引先)、従業員など、財団法人を取り巻く関係者への事前周知、調整などのほか、進め方に関する詳細な計画立案等の準備を行う。およそ2~3か月が見込まれる。

Ⅱ.一般社団法人の新設
一般的な設立手続の流れは、①一般社団法人の定款作成→②公証人の定款認証→③設立時役員の選任→④設立登記である。およそ1か月程度が見込まれる。

Ⅲ.吸収合併手続
設立した一般社団法人に、既存の財団法人を吸収させる手続を行う。
①設立した一般社団法人と既存の財団法人の各法人において、吸収合併に関する理事会決議を行った後、両法人間において吸収合併契約を締結する。
②その後、設立した一般社団法人において、事前開示書面の備置き→債権者異議手続→社員総会の承認決議(※注6) を経る。既存の財団法人においても、事前開示書面の備置き→債権者異議手続→評議員会の承認決議(※注7) を経る。
③そして、あらかじめ契約で定めた日に吸収合併契約の効力が発生し、既存の財団法人は消滅し、設立した一般社団法人に一体化される。なお、その後、消滅した財団法人に関しては解散登記を、存続する一般社団法人に関しては変更登記を行い、事後開示書面の備置きを行う必要がある。
吸収合併手続には、およそ2か月程度が見込まれる。

公益財団法人を公益社団法人化したい場合

公益財団法人を公益社団法人化したい場合、限られた期間の中で今回の問題に対処する現実的な方法として、主に以下の2つが考えられる(※注8)

ただし、いずれの方法をとるにせよ、公益法人の要件として「公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎」が求められる(公益認定法(※注9) 第5条第2号、同法第25条第2項第1号)。2期連続純資産額300万円未満の危機にある財務基盤脆弱な公益財団法人の場合、この要件を充足せず、公益認定(又は公益地位承継の認可)を受けられないおそれがあるため、十分留意すべきである。

・新設合併+公益地位承継スキーム
①新たに一般社団法人Aを設立する。
②一般社団法人Aと既存の公益財団法人Bを合併させ、新たな一般社団法人Cを設立する。この新設合併手続の際、並行して、一般社団法人Cが公益財団法人Bの公益法人の地位を承継することにつき、行政庁へ認可を申請しておく(公益地位承継の認可申請、公益認定法第25条第1項から第3項)。
③行政庁の認可があれば、一般社団法人C設立時に、公益財団法人Bの公益法人の地位を承継し、公益社団法人Cとなる。

・吸収合併+公益認定事後取得型スキーム(※注10)
①新たに一般社団法人Aを設立する。
②一般社団法人Aに、既存の公益財団法人Bを吸収させて合併する。
③公益財団法人Bを吸収した一般社団法人Aが、公益認定を申請し、公益認定を受ければ、公益社団法人Aとなる(公益認定法第4条)。

なお、「吸収合併+公益認定事後取得型スキーム」の場合、吸収合併後に、公益認定を受けるまで、公益地位喪失期間があり、公益目的取得財産の残額を定款の定めに従い他の公益事業を行う法人等に贈与しなければならないおそれがあり(公益認定法第30条)、その点を懸念するならば、新設合併+公益地位承継スキームを選択することになろう。

最後に

本稿は、日本医師会総合政策研究機構・平沼髙明法律事務所 共同研究『医療機関の開設主体に対する法規制上の課題』(令和3年7月、日医総研ワーキングペーパー)を参考としているところが大きい。今回の問題やその対処法の詳細を知りたい場合は、同文献をご覧いただければ幸いである。

最後に、感染の危険を顧みず、新型コロナウイルス感染症と日々戦う医療従事者、社会インフラを支える関係者、倒産の危機に晒されながらも行政に協力し日々営業自粛で耐えている飲食店関係者等の各位に、心からの敬意を表しつつ、本稿が僅かながらでも財団法人の今後の運営に役立つことを期待し、筆を置くこととする。

【脚注】
※注1.新公益法人制度研究会編著『一問一答 公益法人関連三法』149頁(平成18年、商事法務)
※注2.熊谷則一著『逐条解説 一般社団・財団法人法』(平成28年、全国公益法人協会)
※注3.四病院団体協議会『厚生労働大臣宛て「新型コロナウイルス感染症対策にかかる緊急税制改正要望」』6頁(令和2年8月19日)
※注4. 前出注3
※注5.当該土地等が事業に必要な場合は、セール・アンド・リースバック取引の手法(第三者に売却後、その直後に第三者から借り受ける方法)を併せ用いるなどが考えられる。
※注6.債権者異議手続と社員総会の承認決議とは順番が前後しても構わない。
※注7.債権者異議手続と評議員会の承認決議とは順番が前後しても構わない。
※注8.事業譲渡スキームは、前述のとおり、個々の譲渡財産ごとに移転の手続を要するなど、一般的には短所が多く、現実的な方法でないと思われる。
※注9.正式名称は、「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律」
※注10.吸収合併+公益認定事前取得型スキーム(①新たに一般社団法人Aを設立する。②一般社団法人Aが、公益認定を申請、取得し、公益社団法人Aとなる。③公益社団法人Aが、既存の公益財団法人Bを吸収して合併する方法)も考えられるが、何の実績もない新設の一般社団法人Aが公益認定を取得するのは、本文で掲げた2つのスキームよりも容易でなく、かつ期限的にも厳しいと思われ、非現実的と考え、検討外とした。

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石原博行(弁護士)

2021.08.05