物価の優等生である卵脱落後は病院給食だけに
工藤 高 [(株)MMオフィス 代表取締役]
■入院時食事療養費は2年間で計50円の引き上げ
入院時食事療養費(Ⅰ)は1998年から1日1,920円(1食あたり640円)と26年間据え置きであった。昨年30円、本年20円と2年間で計50円の引き上げで、1食につき690円になった。食材の卵同様に皮肉をこめて言えば価格が上がらない「物価の優等生」であった。ただし、卵価格の安定は1989年からおよそ30年間であり、JA全農たまご㈱によると1kgあたり150〜250円、Mサイズ1個あたり約9〜15円だった。それが2020年以降は鳥インフルエンザ、ロシアのウクライナ侵攻、円安、飼料価格や人件費、水道光熱費などの高騰による複合的要因で東京の卸値でMサイズ1kgあたり350円になった。もはや卵は物価の優等生とは言えない。
病院給食は2017年10月に厚労省が公表したデータで2004年と比較して収支が悪化していた。患者1人1日当りの平均支出額は全面委託で2,454円、完全直営で2,475円となっており、当時の一般食1日1,920円(1食あたり640円)に対して赤字となっていた。レストランならば食材価格引き上げを消費者価格に転嫁できるが、それが公定価格のため、令和の米騒動下でも価格転嫁できないのが医療機関経営のつらいところだ。
■基準給食制度としての1日当り点数から94年に療養費へ変更
1994年までは療養費ではなく、基準給食制度として1日あたりの点数であった。戦後、間もない頃は栄養不足で病気になっていたため、基準給食制度は医療の一環であった。在宅患者の食事は自己負担なのに入院だけが保険給付対象はおかしいという考えに基づき療養費に変更となった。94年は1日1900円、98年には消費増税3%から5%への対応で1日1920円(1食あたり640円)と、これが昨年24年改定まで据え置きだった。
さらに06年には1日あたり1920円から1食あたり640円に変更された。1日3食提供すれば同額だが、「退院日など朝食しか提供しなくても1日分が請求できるのはおかしい」との理由による適正化であった。多くの入院患者は朝食後に午前中退院が多いため、これも経営にはマイナスとなった。また、19年10月の消費増税8%から10%の際は据え置きと、入院時食事療養費は“完全放置”されてしまった。
■日本マクドナルドは過去3年間で合計6回も値上げ
医療サービス振興会「医療関連サービス実態調査」によると、病院給食の「一部委託、全部委託」は91年19.9%だったものが、03年には53.8%となり、21年には72.4%となった。完全直営は3割弱と少なくなった。委託が増えてきた背景は、第1に医療機関における管理栄養士業務が「患者さんに美味しい食事を提供」から、最近は栄養管理、栄養指導、栄養改善、NST(栄養サポート)、在宅部門など患者や家族等に直接的に対面指導しなければならないステージにシフトしたことだ。収支的には完全直営よりも全面委託が費用高になる場合が多くなったが、管理栄養士が病院給食管理業務から解き放たれ、臨床管理業務へ専念することで保険収入と患者さんのQOL(生活の質)がアップする。
第2は最近の調理師、調理補助者の採用困難な状況である。委託すれば、それらの募集や労務管理も含めて委託会社へ一任できる。直営の病院では人手不足のため、比較的、採用しやすい管理栄養士が厨房で調理業務を行う病院もある。ただし、臨床管理栄養士として働くための大学教育を4年間受けてきたため、今度は管理栄養士が不満を持ち退職するという負のスパイラルが発生している病院もある。
日本マクドナルドは本年3月に一部商品の店頭価格を10円から30円ほど値上げした。ハンバーガーは170円から190円に改定された。過去3年間で合計6回の値上げが実施されている。かつて100円マックという時代もあったが、入院時食事療養費はその状態のままである。
病院、給食委託会社ともに食材費、人件費高騰で厳しい経営を強いられており、その解決のためには入院時食事療養費も大幅引き上げしかない。
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工藤 高 [(株)MMオフィス 代表取締役]
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