「外国人なしに日本社会は回らない」は本当か?
河合雅司 (ジャーナリスト、人口減少対策総合研究所 理事長)
外国人問題に対する国民の関心が高まりをみせている。政府は「移民政策はとらない」としながらなし崩しで受け入れの拡大を続けてきたため、不安を募らせる国民が少なくない。一方、人手不足の深刻化を背景に外国人に頼る職種が拡大している現実もある。
こうした状況を受けて、鈴木馨祐法相は出入国在留管理庁にプロジェクトチームを設置することを表明した。受け入れ人数に上限を設定することの是非などがテーマとなる見通しだ。
大規模受け入れの是非を考えるにあたっては、日本のような人口激減国が踏み切れば総人口に占める外国人比率が急上昇することをまず認識する必要がある。母国の人口が激減するわけではない国とはこの点が決定的に異なる。
日本人人口の減少スピードは速い。厚労省の「人口動態統計月報年計(概数)」によれば2024年の日本人の出生数は68万6061人、死亡数は160万5298人で、いずれも政府の将来推計を大きく上回った。今後の日本人人口は毎年100万人を超すペースで減り続ける見通しだ。
一方、出入国在留管理庁によれば2024年末現在の在留外国人数は376万8977人で過去最多を記録した。いまのところ総人口に占める割合は3.04%に過ぎないが、この先は状況が一変する。過去3年の在留外国人数の伸びを調べると、2022年は前年比31万4578人増、2023年は33万5779人増、2024年は35万7985人増と30万人台だ。これを率にすると前年比10%超の大幅な伸びが続いているのだ。
仮に2024年と同じ「35万人増」のペースで今後も増え続けたならば、2040年に約937万人、2042年には1000万人を突破する。
外国人人口はこの予測値を基に、日本人人口については実績値に近い国立社会保障・人口問題研究所の「出生低位・死亡高位推計」を用いて計算してみると、総人口に占める外国人割合は20年後には2045年には10.2%。2070年には22.2%となる。
機械的な計算では外国人人口が日本人人口を上回るのは2111年だが、実際にはもっと早い。外国人人口を押し上げるのは来日者だけではない。日本で生まれる二世、三世も増えるからだ。もし、外国人労働者を人手不足対策の〝助っ人〟程度に考えているならば、認識を改めたほうがよい。
外国人人口が増えれば、国政への参政権付与を求める声は強まろう。日本語以外の言語が母国語に加わる可能性も捨てきれない。天皇制だって日本人が少数派となることを前提としていない。諸外国では外国人の割合が大きくなると排外主義が台頭しているが、日本だけ例外とはいくまい。
外国人との共生や人権保護の重要性を理解していても、変化のスピードが速すぎると気持ちが追い付かない人が出て来るものである。
日本のような人口激減国が大規模に外国人を受け入れるというのは、「国のカタチ」を大きく変質させることを容認することにほかならない。それは莫大な社会エネルギーを要する。目先の課題解決や一時的な社会のムードに流されて決めてはならない問題である。
そもそも、「外国人労働者に頼らなければ日本社会は回らなくなる」という主張は本当なのか。確かに現時点では外国人なしに成り立たない職場は存在する。だからと言って、「この先も外国人労働者を大規模に受け入れ続けなければならない」ということにはならない。
人口が減れば勤労世代が少なくなるというのはその通りだが、同時に需要も縮小する。結果として日本全体としての「仕事の総量」も減る。当然ながら働き手の不足数も小さくなるだろう。
加えて、生成AIの目覚ましい進化がビジネス環境を大きく変え始めている。これから「事務仕事」を中心に省人化がどんどん進むとみられる。経済産業省の「2040年の就業構造推計」は、AI・ロボットの活用やリスキリングなどによって2040年には189万人分をカバーすることができ、同年に必要な業務量に対して大きな人手不足は起こらないとしている。
むしろ問題となるのは、職種間のミスマッチのほうだ。経産省はAI・ロボットの活用を担う人材が300万人ほど不足する一方、生成AIおよびロボットなどの普及に伴う省力化で事務や販売、サービスなどの仕事では約300万人の余剰が生じる可能性があると試算している。世界各国でも生成AIの効果と影響の分析が進められているが、「ホワイトカラー職種の多くが不要になる」との予測が少なくない。
現在の人手不足の中心は現業部門だ。これを「安い労働力」としての外国人で補充している企業が多い。だが、こうした「現場の仕事」は必要不可欠である上、すべてを機械に置き換えるわけにもいかない。すなわち、それは人手不足が進むにつれて賃金が上昇するということである。今後の「現場の仕事」は賃金水準が上昇するにつれて、社会的ステータスも高まるだろう。
そうなれば、ホワイトカラーの仕事を失った人や就けなかった新卒者がこうした職種へと移る。やがて大規模な雇用のシフトへとつながるだろう。
政府もこうしたビジネス環境の変化をにらんで、6月に閣議決定した「骨太の方針」に「アドバンスト・エッセンシャルワーカー(デジタル技術等も活用して、現在よりも高い賃金を得るエッセンシャルワーカー)の育成」を書き込んだ。
ビジネス環境が大激変期にあるというのに、古い発想のまま外国人労働者を「現場の仕事」の担い手として大規模に受け入れ続けたならば、ホワイトカラーの仕事から移ってくる人々との競合を招く。「安い労働力」として期待することにはもはや無理がある。
むろん、外国人の受け入れを全面否定するつもりはない。日本産業に成長をもたらす高度人材は積極時に招き入れる必要がある。また、生成AIの定着やアドバンスト・エッセンシャルワーカーの育成にはしばらく時間がかかる。それまでの間、人手不足対策として外国人に頼らざるを得ない。
要するに、当座の受け入れは、少し先を見据えて限定的、計画的であるべきということだ。
外国人を大規模に受け入れたとしても日本の人口減少が止まるわけではない。むしろ、いまの日本が急ぐべきはAI・ロボット開発などへの投資であり、リスキリングのための人的投資の強化であり、付加価値生産性(企業が新しく生み出した金額ベースの価値)の向上である。
人口が減っても経済を成長させ、社会を機能させることこそ人口減少対策の「王道」だ。その実現のための努力を怠ってはならない。
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河合雅司 (ジャーナリスト、人口減少対策総合研究所 理事長)
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