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先見創意の会

今どきの・・・

大橋照子 (NPO「日本スピーチ・話し方協会」代表 ・フリーアナウンサー)

NPO「日本スピーチ・話し方協会」や「大橋照子話し方教室」を主宰しているので、色々な会社や大学、中学・高校などからスピーチやプレゼン講習会、マナー研修会、面接練習講習会などの講師を依頼される。

そんな会社や学校に伺って見聞きすることは、今どきの若者の姿を浮き彫りにしていてなかなか興味深い。
いくつかそんな話を書いてみよう。

1.ある大学で、先生が学生に「明日は、9時10分前に集合」と言われた。先生は、「みんな8時50分に来るだろう」と思っていたら、翌朝なぜか「9時7分頃」にゾロゾロ現れる。
「みんな、遅刻だろう」と言うと、
「いえ、ちょうどです」
「9時10分前、集合だよ」と言うと、
「はい、9:10のちょっと前に、ちゃんと来ました」
え~、それで9:07なのか…、先生は”過去に存在した日本語”が通じないことに呆然としたそうだ。

2.私がある会社の新入社員研修をしたとき、アイスブレイクで
「この前、転んで恥ずかしかったんですよ」
と経験談を話し、そのあとで
「皆さんは若いから転ばないですよね。最近、転んだ人はいらっしゃいますか?」
と聞いたら、なんと女子社員が全員手を挙げた。
「え、女性が全員?」と驚いて、わけを聞くと、
「3月まで学生だったので、毎日スニーカーを履いていました。それが4月から急に、ヒールのある革靴です。履き慣れないから転んでばっかりです」
「私は、階段を踏み外しました」
「私は、信号が変わりそうなので、横断歩道を走って滑って転びました」
そうなのか…と、妙に納得した。
私の学生時代、スニーカーは男子学生が履くのが常識で、女子学生は100%スカートとヒール靴だった…。

3.マナー研修の中で、お辞儀の仕方をお教えすることが多い。航空会社のCAさんやデパートの店員さん、テーマパークの職員の方には特に念入りに練習をする。
お辞儀の種類には、2種類あり。
”同時礼”:「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」などの言葉と、頭を下げるのを同時に行う。
”分離礼”:相手の顔をしっかり見ながら「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」などの言葉を言い、そのあとで腰を倒して頭を下げる。

一般的に“同時礼”と“分離礼”では、“分離礼”のほうが丁寧なお辞儀とされている。
CAさんやデパートの店員さん、テーマパークの係の方、各会社のお客様相手の方などは、この”分離礼”だ。
”同時礼”を好むのは、居酒屋さんなど飲食店や小売店といった、庶民的な親しさでお客様と触れ合う場合だろう。

私の研修会ではほとんどこの”分離礼”の方をご指導する。
そのときに、数年前まで「頭の下げ方」は次の2種類でお教えしていた。
・男性的なお辞儀:両手を体の横に付けて、キビキビと背中を倒すようにお辞儀する
・女性的なお辞儀:両手を体の前に重ねて、静かに柔らかく背中を倒すようにお辞儀する 
――しかし今はジェンダー尊重の時代。「男性的」「女性的」の表現を使うことができない。
そこで、
・力強くきびきびとしたお辞儀
・優しく柔らかい静かなお辞儀
という表現をして、2種類でお教えしている。

先日の「新入社員研修」のときに、一番前にがっちりした体格の男性が座っていたので
「何かスポーツをされているんですか?」と聞くと、
「はい、ずっと野球部にいました」の返事。気持ちの良いスポーツマンだ。
お辞儀の練習の時間になり、「2種類のどちらのお辞儀をしたいか」と全員に尋ねた。
当然、そのがっちりしたスポーツマンの彼は「力強くきびきびとしたお辞儀」に手を挙げると思ったら、なんと「優しく柔らかい静かなお辞儀をしたい」方に手を挙げていた。そして、手を体の前に重ねて、静かにお辞儀をする練習をしたのだった。

4、若い皆様には通じない言葉が多い。
「チューシングラ? アコーローシ?(忠臣蔵、赤穂浪士) 聞いたことがありません」
「そうか、チャンバラをテレビで見ないんですね?」
「え、チャンバラって、何ですか?」
そんな具合だ。
「袖の下」「掘っ立て小屋」「清水の次郎長」「舌鼓を打つ」、こんな言葉も通じない。

いくつかのエピソードを列記してみたが、若い人たちの「今どきの話」は、面白くて枚挙にいとまがない。
しかし、今月講習会をさせて頂くのは、東京のある区からの依頼で「市民講座:楽しい朗読教室」だ。「市民講座」というと、参加者が60代~80代のリタイアされた方や主婦の方々が多い。
この年代の方々とお話しすると、言葉や考え方の常識が私と同じで、とてもやりやすい。
今回は、気楽に楽しく講座をしてこようと思う。

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大橋照子(NPO「日本スピーチ・話し方協会」代表 ・フリーアナウンサー)

◇◇大橋氏の掲載済コラム◇◇
「空手とスピーチ」【2025.2.4掲載】
「年齢のこと」【2024.11.6掲載】
「聞き取りやすく話す」【2024.8.13掲載】
「ラジオ番組の同窓会」【2024.4.23掲載】

☞それ以前のコラムはこちらからご覧下さい。

2025.05.13