自由な立場で意見表明を
先見創意の会

十人十色 要は…。

楢原多計志 福祉ジャーナリスト

 2021年度介護報酬改定をめぐる厚生労働省の審議会「介護給付費分科会」の論議が後半戦を迎えている。8月、分科会のメンバーではない介護事業者団体に対するヒアリングが開かれた。大半の団体は自己PRに短い時間を費やし、報酬引き上げなどを求めたが、何かがが足りない。

利用者そっちのけ

 ヒアリングに臨んだのは、日本ホームヘルパー協会や日本福祉用具供給協会、全国有料老人ホーム協議会などの介護系団体のほか、日本病院会(日病)や日本理学療法士協会など医療系団体など総勢26団体。また2団体が書面で意見を伝えた。

 21年度介護報酬改定の審議は今年12月がタイムリミット。各団体とも経営の悪化や歯止めがかからない介護人材不足を訴え、介護報酬の引き上げや職員配置や運営の基準緩和を要望した。介護報酬改定が3年ごとに実施されるためヒアリングも3年ごとになるが、今回はいつもにまして物足りなく感じた。

 いくつか理由が考えられるが、最も強く感じるのは各団体とも経営の窮状を訴えるものの、「利用者の思い」(希望や不満など)を少しでも代弁する意見が皆無で第三者がみてインパクトがなかったことだ。介護保険制度の目的や理念など「そっちのけ」。自己PRと報酬アップ・基準緩和を要望するパターンがより強くなっている。「介護保険の主役は利用者です」と発言した「認知症の人と家族の会」の理事(分科会委員)の言葉が胸に刺さった。

「どこ吹く風」の自治体

 介護保険制度が創設されてから約20年。保険給付費に利用者自己負担額などを加えた総介護費用は10兆円を突破し、公的年金、公的医療保険に次ぐ規模の社会保険に成長した。だが、制度や報酬を見直す審議会の議論は旧態依然のまま。特に今回のヒアリングは酷かった。

 「コロナ禍による介護事業者の影響調査で検証してほしい」(全国訪問看護事業者協会)、「指定権者(地方自治体)のローカルルールを撤廃してほしい」(24時間在宅ケア研究会)など、本来、自ら参画して自治体に要求すべき要望や苦情を厚労省や審議会に向けていた。相手を間違えている。

 もっとも最大の保険者である市町村も、当事者意識が薄く、地域の苦情を強調するばかりで、人員配置や運営基準、行政監査まで「厚生労働省の見解待ち」なのが実態。だからなのか、当てにされていないようだ。

 何か不都合が発生すると、厚労省に判断を仰ぎ、挙句、ガイドラインの作成まで要望する。地方分権など、どこ吹く風なのだ。創設時、当時の厚労省事務次官は「介護保険制度は地方分権の試金石」と明言した。介護事業の経営だけではなく、地方分権の実態も同時に検証してほしいくらいだ。

算定率低い新設の加算

 いままでの報酬改定に大きな問題がある。基本報酬に上乗せされる加算だ。ここ数回の改定で加算が増え続けている。政府は基本報酬を抑える一方、行政がさじ加減できる加算の創設や拡大には積極的だ。介護職員の処遇改善では最高で5万7千円(交付含む)も引き上げ、まさに大盤振る舞い。前回の19年度改定でも加算が創設されたり、要件を緩和したりした。

 ところが、算定率を見ると、通所介護の「ADL維持等加算」0%、短期入所の「生活機能向上連携加算」0.1%、居宅介護支援の「ターミナルケアマネジメント加算」0.9%、訪問看護の「看護体制強化加算Ⅰ」2.6%、訪問リハの「社会参加支援加算」18.8%─など低いものが少なくない。創設したばかりで手続きが間に合わないケースもあるが、現場から「ハードルが高すぎる」「申請書類が煩雑」と不満が噴出している。

胸なでおろす厚労省幹部

 しかし、各団体から「加算の要件を見直してほしい」「加算の創設の検討を」と加算を当て込んだ要望が相次いでいる。「加算を取らないと、経営が行き詰まる」(全国介護事業者連盟)との切実な声がある。全国個室ユニット型施設推進協議会のように、基本報酬引き上げ1本に絞って要望をする団体は極めて珍しい。
 
 結果として、各団体は「いかに介護保険サービス事業に励んでいるか」をアピールし、次期改定では加算要件の緩和や新設を強く求めるというパターンに陥る。新型コロナウイルス感染症拡大で露呈した感染防止やデジタル化の遅れが加算創設を後押ししそうだ。ベテラン委員らから「そろそろ加算を整理しないと国民が混乱している」「加算、加算で利用者の負担は増え続けている」との「正論」は通りそうもない。

 各団体の意見や要望はまさに「十人十色」。要は、バラバラなのだ。事業者団体が連帯して厚労省や審議会、保険者に基本報酬引き上げに絞って要求する形にはなりそうもない。今回も厚労省担当幹部職員はホッと胸をなでおろすことになりそうだ。

2020.09.01