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先見創意の会

日本の医療のグランドデザイン2030の核心

細谷辰之 公益財団法人福岡県メディカルセンター 主席研究員

1.グランドデザインのあるべき姿

グランドデザインというものは何かと便利である。全体構想を示す時に有用なばかりでなく、作ったという満足感が得られる。世の中には、官民問わず多くのグランドデザインがあふれている。かくいう筆者もP大学、N大学附属病院、北海道のM市に加えもう一つ合計4件の「グランドデザイン」制作に関わった。グランドデザインとは将来に実現すべき全体像を描いたものである。そして、将来像に至るまでの道程を具体的な計画として持っていることが大切である。さもなければ、せっかく描いたグランドデザインが絵に描いた餅に終わる。

筆者が関わった4件目のグランドデザインは日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が2019年3月25日に発表した「日本の医療のグランドデザイン2030」である。これは「ヒト」を守る、と通底モチーフとし、3部構成に設計された。印刷製本化されたのは第1部と第2部だけであった。第3部として添えられた「アクションプランアジェンダ2030」という実行計画が抜け落ちている。これは画竜点睛を欠くので、本稿で第3部の概要を述べておきたい。

なお、「日本の医療のグランドデザイン2030」第1部、第2部は日医総研のホームページ上でも公表されているので是非ご一読いただきたい。

2.学習指導要領改定

アクションプランでは「ヒト」を守る医療を実現するために必要な社会変革(環境及び構造)を取り上げている。特にここで示したいのは、「学習指導要領改定への提言づくり」そして「医療現場での不法状況の改善」についてである。

最初に学習指導要領の改定について述べる。
社会は、一人一人の行動選択の結果右にも左にも動いていく。社会を変えるのに教育の成果を待つというのは一見迂遠に見えるが、多分最も確実で合理的な方法であろう。1人でも多くの人間が、より合理的な判断をし行動を選択していく。その環境を生み出すための教育を準備する。そのことを意識して次の学習指導要領改定に向けて、ヒトが生きていく上で必要な医療に関する理解を身につけられる教育の導入についてまとめる。より合理的な判断や行動選択をする人を増やす必要性は、今まさにCOVID-19によって見せつけられている最中である。必要な行動変容を起こすためにも、全体として医学、医療、健康についての体系的、継続的な教育が必要である。先行するがん教育とも連動し、教育現場の働き方にも配慮した提言を行う。

(1) 達成目標
〇学習指導要領改定への医療界からの提言作成
〇提言を核とした医療教育の実施
〇児童生徒の栄養状態の改善
〇不登校への対応、居場所とセーフティーネットの整備
〇パンデミックへの対応
〇先行的事例を共同できる市町村において実施

(2) 具体的手順
➀提言作成委員会の設置
➁提言基案の作成
➂基案の公表と批判の集積
➃提言の作成と提言
➄先行事例としての医療教育の共同自治体の募集
➅共同自治体での先行的実施

3.医療現場での不法状況の改善

次に「医療現場での不法状況の改善」である。医療現場における不法状況といっても広範多岐に渡りすぎ全てを網羅するのは不可能である。そこでその中からまずは「救急搬送」を取り上げ、暫時医療現場で放置されている不法状態について問題を抽出し、それぞれについての解決策を提言として作成提示していくことが求められる。

(1)具体的手順
➀問題点の抽出
➁分析
➂解決策の提示
➃関連学会等で発表
➄都道府県医師会を通じて、各消防本部、消防局に解決策を提示。
そのほかにも社会基盤に関わる問題として以下のようなことが認識される。これらについては、紙数に制限があるので項目のみに留め内容は別稿に譲りたい。

(2)その他の社会基盤の整理
➀医療報産業の健全な発展のための基盤整備。
➁医療経営の最適化への環境づくり。
➂社会の中に医療をいかに位置づけるか」への理論整備。
➃安全保障としての医療を機能させるための医療資源の配分、施設・人員配置の基準の見直し。
➄行政、産業界を含む成人への啓蒙に必要な理論整備。
➅災害をも想定した医療供給体制の設計。
➆予防医療の推進。
➇基礎疾患の重症化予防。

4.先行事例の実現に向けて

あるべき医療の実現のために社会基盤、制度、環境を整備していくことが必要である。社会全体にわたる基盤、制度、環境を整備することは時間もかかりまた完結することもない事業である。歴史の求めに応じてこの事業の成果を出し続けるためには社会全体を対象とした取り組みに加え、より小さな地域や、特定のテーマを対象とした先行事例を積み上げることが効果的である。着眼大局、着手小局である。

(1)着手小局の適用モデル
➀人口過疎地の地域医療連携モデルの設計と実施支援。
尿病の重症化予防の行動計画作成とその実施、 血圧のコントロールの行動計画 の作成とその実施、 市内小中学校での健康教育の実施、 市町村や医療圏の枠を超えた広域連携の支援。
➁離島僻地の地域医療・地域総合計画作成支援と実施支援。
地域のGD、行動計画作成支援、 GD作成・行動計画作成の会議の設置、 予防医療・保健の整備、 離島での健康調査、 外部講師による研修。
➂首都圏での地域医療モデルの発掘・設計支援・運営支援。

5.問題の解決に向けて

2019年3月25日グランドデザインの完成からは2年以上経っている。「日本の医療のグランドデザイン2030」に従い独自のアクションプランを実行しようとしている県医師会(福岡県、秋田県)や自治体(北海道紋別市、鹿児島県瀬戸内町など)もいくつか出始めている。

「ヒト」を守るをモチーフとする日本の医療の姿を実現していくために、問題意識の高い地域から、それぞれのアクションプランを立てていくに違いない。
そのような小さな成功例を集め、積み上げ、拡げていくことが、私に与えられた使命であると考えている。
また、それが次のグランドデザインを描くことにつながっていくことを切望している。

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細谷辰之(公益財団法人福岡県メディカルセンター 主席研究員)

◇◇細谷辰之氏の掲載済コラム◇◇
「出アフリカ記」【2020年12月29日掲載】
◆「行く道の選択と選択肢の選択」【2020年8月25日掲載】
◆「限界利益という衝撃:大学病院と日本の研究環境」【2020年6月9日掲載】
◆「オホーツクから日本の地域医療を考える」【2019年10月8日掲載】

2021.04.27