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医療機関が知っておくべき下請法改正のポイント

髙山 烈 (弁護士)

1.はじめに

下請法(下請代金支払遅延等防止法)は改正により「中小受託取引適正化法」(通称名)と名称変更され、2026年1月1日に施行されます。

法改正のポイントは、主に次の3点です。
 ① 「下請」という用語の変更
 ② 法適用の範囲の拡大
 ③ 禁止事項の追加

以下、医療機関に同法が適用されるケースを念頭に置きながら、法改正のポイントをご紹介します。

2.用語の変更

法改正により、「下請」という用語の使用が見直され、次のとおり変更されます。
親事業者 → 委託事業者
下請事業者 → 中小受託事業者
下請代金 → 製造委託等代金

3.適用範囲の拡大

 ⑴ 特定運送委託の対象取引への追加
下請法の適用対象となる取引は「製造委託」「修理委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託」の4類型でした。中小受託取引適正化法では、これら4類型に加えて、中小の物流事業者を保護する観点から、5つ目の類型として「特定運送委託」が追加されました。

医療機関において、各類型に該当するケースは次のとおりです。
① 製造委託
● 医療機関が医療機器(例:手術用器具、検査機器、消耗品など)の規格や品質、デザイン等を指定して、メーカー等に製造を委託する場合。
● 医療機関が院内で使用する特定の医療用備品や部品の製造を外部事業者に委託する場合。例えば、医療機関が自院ブランドの医療用マスクやガウンの製造を委託するケースなどが該当します。
② 修理委託
● 医療機関が院内で使用している医療機器(例:MRI、CT、内視鏡など)の修理を外部の修理業者に委託する場合。
● 医療機関が自院で使用する物品の修理の一部を外部事業者に委託する場合。
③ 情報成果物作成委託
● 医療機関が電子カルテシステムや医療用ソフトウェアの開発・カスタマイズをIT事業者に委託する場合。
● 医療機関が院内案内用の映像コンテンツやデザイン(例:院内サイン、パンフレット等)の作成を外部事業者に委託する場合。
④ 役務提供委託
● 医療機関が院内清掃、警備、設備管理などのサービスを外部事業者に委託する場合。
※ ただし、医療機関が自ら用いる役務(自家利用役務)を委託する場合は、下請法の役務提供委託には該当しません。
⑤ 特定運送委託
● 医薬品、検体の搬送等を運送事業者に委託する場合。

⑵ 従業員基準の追加
下請法では、取引類型に応じて、資本金区分のみにより法適用の有無を区別していました。そのため、法適用を免れるために、事業規模が大きいにもかかわらず資本金を少額に抑える事業者がいたり、受注者に増資を求める事業者がいるといった問題がありました。

そこで中小受託取引適正化法では、従業員数「300人」(製造委託等)または「100人」(役務提供委託等)という従業員基準を追加し、法適用の範囲を拡大しました。

なお、平成19年4月に医療法が改正され、出資持分のある医療法人の新規設立はできなくなっていますが、中小受託取引適正化法における資本区分は出資総額を指すものであるため、同法の資本区分に該当する限り、医療法人であっても同法の適用対象です。

4.禁止事項の追加

下請法は、親事業者の禁止事項として、「不当な経済上の利益の提供要請」「下請代金の減額」「不当な給付内容の変更及び不当なやり直し」などの11類型を規定していました。

中小受託取引適正化法では、さらに、次の2つの類型を禁止事項に追加しています。
① 協議を適切に行わない代金額の決定の禁止
中小受託事業者にコスト上昇が生じているにもかかわらず、委託事業者が協議に応じずに価格を据え置くことなどを禁止するものです。
② 手形払等の禁止
手形払のみならず、電子記録債権やファクタリングについても、支払期日までに代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難であるものについては認めないこととされました。

5.終わりに

以上のとおり、医療機関であっても、中小受託取引適正化法の定める委託取引(製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託、特定運送委託)を行い、資本金要件または従業員基準を満たす場合には、同法が適用されます。気づかぬうちに法令違反をおかすことのないよう注意し、改正法のポイントを押さえておきましょう。

2025.11.11