人質司法と医療過誤
中村十念 [日本医療総合研究所 取締役社長]
1.未決拘禁者処遇規定
逮捕者は取り調べのために、拘置所に拘禁されることがある。犯罪者ではなく一般市民であるが、特に未決拘禁者と呼ばれる。
未決拘禁の管理手法を定めたものが「未決拘禁者処遇規定」である。法的性格は法律ではなく、省令である。法律である「刑事施策法」をなぞって作られている。
医療についても言及されており、医療法等医療関係法を参考にした常識的な内容が記載されている。
大川原事件の相嶋さんケース
最近、警察・検察のチョンボで有名になった事件に、大川原化工機事件という公安事件がある。始まりは2000年3月である。
この事件では3人が逮捕されたが、その中に相嶋静夫さんがいた。相嶋さんは逮捕後半年でがんが見つかり、その4カ月後に死亡した。拘禁中は体調がすぐれなかったのであろう。毎月のように保釈申請をしたが認められなかった。いわゆる人質司法が続けられた。
謝罪イベント
2025年8月下旬に、警察・検察の首脳が、相嶋さんの墓前でチョンボを詫びた。
この事件は公安捜査という面と、人命の安全保障という両面があった。しかし首脳が詫びたのは捜査上のチョンボだけである。
医療による生命の安全保障については、ほとんど言及がなく、医師や医療職の謝罪への列席もなかった。だから何一つ医療面での真相がわからない。
医療事故訴訟
医療という面から見ると、相嶋さんのケースは注意義務や説明義務違反の連続ではないかと思われる。何より、相嶋さんは当時から今まで一般の国民であり、憲法で、健康で文化的な生活を保障されているはずだ。もちろん医療についてもそうだ。
どうか相嶋さんのご家族の方には「未決拘禁者処遇規定」違反で、拘置所の医療の管理機構を訴訟の場所に引っ張り出していただけないだろうか。それがないと、拘置所医療の問題解決や解決のための論議は始まらないと思う。
また人質司法が継続されているのは、それなりのメリットがあるからだ。しかしそれを維持するためのコストの面が無視されている。一般市民を人質とする以上、人としての尊厳を守るコストを支払わなければならない。裁判官はこのことを分かりすぎるぐらい分かっている。ただそれを言い出すキッカケがないだけだ。
大川原事件は、日本の人質司法を解決できるだけの価値がある。
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中村十念[(株)日本医療総合研究所 取締役社長]
◇◇中村十念氏の掲載済コラム◇◇
◆「憲法改正と自衛隊のアナクロニズム」【2025.6.3掲載】
◆「経営の眼で政府予算を視る」【2025.1.7掲載】
◆「裁判と経営の関係」【2024.10.15掲載】
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