憲法改正と自衛隊のアナクロニズム
中村十念 [日本医療総合研究所 取締役社長]
1. 自衛隊の戦時回帰
戦後80年の「戦後」がそうさせるのであろうか。自衛隊に旧日本軍なじみの名称をつける行為が流行っているそうである。日英伊共同で開発中の戦闘機名が「烈風」。部隊の名前に「近衛連隊」を別称している例もある。
陸上自衛隊の楽曲の中にも、旧日本軍のそれを彷彿とさせるものが多いと聞く。
国会での憲法改正議論がなかなか進まない環境下、制服組のいら立ちでもあるのだろうか。
2. アメリカのトランプ流発言
自衛隊の雰囲気と併行して、それを後押しするかのようなアメリカ側の知らんぷりにも困ったものである。
アメリカ軍の幹部が東アジアでの戦争の前線に立つのは日本だと言ったとか言わなかったとか。日本国憲法は前文を含めアメリカ発である。それなのに、憲法無視を思わせるこの発言。トランプ流の脅しとも取れる。
アメリカと日本の間には憲法を超えた何物かがあるかのように、まことしやかに言われている。それが否定もされずに都内の某ホテルでは参加者もはっきりせず議事録も公開されない“会合”が行われているという。曖昧なだけに前線を期待される自衛隊幹部には刺激的なのだ。
3. 迷走する憲法改正講義
国会での憲法改正議論は四分五裂である。
与党と野党の間で溝があるし、与党内・野党内でも意見が分かれている。そればかりか自民党の同じ派閥の中でさえ衆議院と参議院で意見が違う。
夫婦別姓問題どころではなく、総論不一致、各論バラバラである。1960年当時の岸総理大臣の血をひく安倍元総理ならこその憲法改正への執念が、憲法改正論議をここまで持ち上げたのだろう。
4. 戦後80年、よくも守れた戦争放棄
憲法が今後どういう運命をたどるかわからない。しかし、これまで80年の間戦争放棄の平和憲法が守られたのは事実だ。
世界の各国から見えれば、「唯一の被爆国のくせに、核兵器禁止条約にも参加しないヘンな国」だと思われているに違いない。
しかし、敗戦国であるだけに、憲法を超える「あるモノ」の存在を怖れざるを得ないこの国にとっては、80年間戦争放棄を死守したことはまずまずの成果だったのであるまいか。
しかし、世界はコンピューターによるデジタル化と生成AIによって大きく変わりつつある。戦争の定義も中身も当然に変わる。変化する「戦争」と戦争放棄した「戦争」が同じものであるか、常に意識していく必要があるだろう。
その意識を自衛隊にも求めたい。
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中村十念[(株)日本医療総合研究所 取締役社長]
◇◇中村十念氏の掲載済コラム◇◇
◆「経営の眼で政府予算を視る」【2025.1.7掲載】
◆「裁判と経営の関係」【2024.10.15掲載】
◆「経営者保証の最小化と経営改革」【2024.9.12掲載】
◆「働き方改革の時代 -労働契約法に注意!ー」【2024.6.25掲載】
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