膵臓がんの革新的治療法開発につながるか?――東京理科大ががん抑制遺伝子候補を発見
谷口久美子 (医療ライター)
早期発見が難しく、予後が悪いことで知られる膵臓がん――。東京理科大学の研究チームはこのほど、骨代謝などで重要な役割を果たす遺伝子が、膵臓がんの進行を抑制する「がん抑制遺伝子」として働いている可能性を世界で初めて発見したと発表した。膵臓がんの予後を予測するバイオマーカーや新たな治療法開発の足掛かりとなることが期待される。
膵臓がんは、初期には自覚症状がほとんどなく、発見された時にはかなり進行しているケースが多いことや有効な治療法が限られることから、がんの中でも致死率が高く、極めて予後が悪いがんの一つとして広く知られている。その発生・進行には複数の遺伝子異常が深く関与し、これらの遺伝子変異が蓄積することで正常な細胞ががん化し、悪性度が増すことが既存研究で明らかになっている。
ただ、これらの遺伝子だけでは膵臓がんの複雑な進行メカニズムを説明することは難しく、他にも重要な役割を果たす遺伝子が存在するとみられていた。
研究チームは今回、骨代謝に深く関わる「CTDNEP1」という遺伝子に着目し、膵臓がんにおける発現状況と、患者の予後や腫瘍の特性との関連性を調べた。
CTDNEP1は、細胞内の情報伝達を調整する脱リン酸化酵素の設計図となる遺伝子。この遺伝子の欠損が小児の悪性脳腫瘍である髄芽腫の発生に関与することがわかっているが、膵臓がんをはじめとする他のがんにおける役割については、ほとんど研究されてこなかった。
がんの初期段階からCTDNEP1の発現が顕著に低下、患者の予後も大きく左右
そこで研究チームは、米国のゲノム研究データベース(The Cancer GenomeAtlas:TCGA)に登録されている膵臓がん患者177症例のサンプルデータを対象に相関解析を行った。その結果、膵臓がんではステージIの早期段階からCTDNEP1の発現が著しく低下していることが判明。膵臓がんの発生に関わるKRAS、TP53、CDKN2A、SMAD4といった遺伝子に変異や欠損がある症例では、CTDNEP1の発現がさらに低下することも確かめた。
次に患者をCTDNEP1高発現群と低発現群に分けて生存率を比較したところ、低発現群は高発現群に比べて生存率が有意に低いことがわかった。その一方で、CTDNEP1の発現率が高いほど、マクロファージや好中球、樹状細胞などの免疫細胞が腫瘍内に多く集まっていることも確認。このことから、CTDNEP1の発現低下が免疫細胞の浸潤を減少させ、がんの免疫逃避に一役買っている可能性が示唆された。
いずれの結果も、CTDNEP1が膵臓がんの進行を抑える「がん抑制遺伝子」として機能している可能性を示すものであり、研究チームは引き続き、CTDNP1が膵臓がんの増殖や転移、免疫環境に及ぼす影響を解明するための細胞実験や動物実験に取り組む方針だ。研究結果は、2026年1月1日に国際学術誌「Cancer Genomics & Proteomics」にオンラインに掲載された。
【出典】
東京理科大学プレスリリース「すい臓がんの進行を抑える可能性のある遺伝子を発見~『沈黙のがん』すい臓がんの早期診断や治療に光~」2026.1.15
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谷口久美子(医療ライター)
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