消費税と最低賃金引き上げという重荷
工藤 高 [(株)MMオフィス 代表取締役]
■病院規模が大きいほど控除対象外消費税が重くのしかかる
インフレ経済に対応していない病院経営状態悪化に拍車をかけているのが医療費に対する控除対象外消費税になる。医療サービスは健康診断や人間ドック等の自費診療を除いて、保険診療は消費税非課税である。ただし、保険診療に関わる医薬品や医療材料、食材の仕入れ、患者給食や臨床検査などの外部委託費、建築や医療機器の購入、リース料に対しては消費税を払っており、その多くが医療機関持ち出し損税である。仕入れ税額控除が認められないため、病院規模が大きくなるほど負担が大きい。医療法人鉄蕉会亀田総合病院(917床)の亀田俊明院長は「年間総費用約600億円のうち約30億円が控除対象外消費税であり、経営を大きく圧迫しています」と述べている(CBnewsマネジメント2025年9月4日)
歴史を振り返れば1989年に初めて消費税が3%で導入された際に日本医師会の要望もあり、医療サービスを「非課税取引」扱いにした。理由は消費税で患者自己負担が増加し、受診抑制が起こるという危惧であった。このときはアップ分を入院環境料(当時)、生化学検査の判断料、全身麻酔、病理検査など36項目と多岐にわたり反映させた。しかし、これらの医療行為を実施していない医療機関もあり、不公平感があった。筆者も当時は360床の病院医事課勤務であったが、その点数配分については正直に言って全く理解できなかった。
■36年前に時計の針を戻せるならば医療費は課税対象にしたい
さらに、それ以降の診療報酬改定で点数自体の引き下げやDPC等の包括医療拡大、さらには廃止点数もある。つまり、1989年の消費税導入時から36年が経ち3%→5%→8%→10%と税率が引き上げられてきた中で、その間に個々の点数にいくら消費税分がオンされているかの詳細については、診療報酬と税制の両者に精通した人でも説明不可の「藪の中」である。先日は2020年〜2022年の消費税負担計算で複数のミスが発覚した。今から思えば36年前に時計の針を戻して、医療サービスを「消費税の課税対象に」と思う医療関係者がほとんどではないだろうか。
四病院団体協議会の2026年度税制改正に関して重点事項をまとめた要望書では、「医療および介護に係る消費税について、社会保険診療報酬および介護報酬の非課税を見直し、診療所においては非課税制度のまま診療報酬上の補てんを継続しつつ、 病院においては軽減税率による課税取引に改められたい」と要望している。
■2025年度最低賃金は全都道府県で1000円超
もう1点、病院経営にとって重荷になっているのは都道府県ごとに決める2025年度の最低賃金の全国加重平均が1121円になったことだ。これは24年度より66円の上昇で過去最高である。 25年度は全都道府県で1000円を超えており、最高額の東京は1226円、続いて神奈川1225円、大阪1117円となっている。一方、最低額は高知・宮崎・沖縄の1023円であった。昨年度、全国最下位だった秋田は80円引き上げて、国の目安を16円上回る1031円とした。秋田では一定額以上の賃上げをする企業への支援金を検討している。中には最下位回避のために他県の様子を見ながら後出しジャンケンの県もあった。
現在、多くの病院ではエッセンシャルワーカー(必要不可欠な病院機能維持に欠かせない業務に従事する労働者)に該当する看護補助者、調理補助者、清掃担当者の採用が困難になっている。ハローワークの求人時給を見ると各都道府県の最低賃金プラス100円〜150円くらいの時給金額から募集されているが、この金額では誰も応募してこない。
最低賃金の引き上げは働く側にとっては嬉しいが、支払う側、特に経営状態が芳しくない中小企業や医療機関・介護施設にとっては重荷である。なかでも来年6月までは診療報酬改定がなく、多くの人材を必要とする「労働集約型産業」の病院にとっては死活問題である。インフレ経済に対応していない診療報酬、控除対象外消費税、最低賃金引き上げというトリプルパンチに対して、緊急的な国や都道府県による補助金の緊急投入が1日も早く必要だ。現在の状況は、個々の病院の経営努力で改善というレベルではない。
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工藤 高 [(株)MMオフィス 代表取締役]
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