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次期診療報酬改定の議論が本格化、機能強化型在支診の評価見直しなどが論点に

谷口久美子 (医療ライター)

10月に入り、中央社会保険医療協議会・総会では2026年度の診療報酬改定に関する二巡目の議論がスタートした。初回の10月1日は在宅医療がテーマとなり、厚生労働省が機能強化型の在宅療養支援診療所や「在宅時医学総合管理料」などに関する見直案を提示した。

厚生労働省(厚労省)の提案と、それに対する関係者の反応は以下の通り。

1.厚労省の提案1:実績豊富な機能強化型在支診・在支病の手厚い評価
(1)提案内容
1 .在宅医療担当医師を十分に配置し、在宅看取りなどの実績が十分であり、地域の重症患者への訪問診療を提供し、他の在宅医療機関の支援機能、そして医育機能(教育機能)を併せ持つ機能強化型の在宅療養支援診療所・病院(機能強化型在支診・在支病)を、より手厚く評価する。
2 .既存の「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」(緊急往診・看取りの実績が豊富な機能強化型在支診・在支病の評価)を、この新たな高評価体系に統合する。

(2)背景とデータ
1 .次期改定では、第8次医療計画(2024〜2029年度)で新しく位置付けられた「在宅医療において積極的役割を担う医療機関」の診療報酬上の評価が課題となっている。
2 .当該医療機関には在支診や在支病からの選定が想定されている。
3 .厚労省の分析データによると、機能強化型在支診・在支病の中には、医師の配置が厚く、看取りなどの実績が多い施設が一部存在する。
4 .具体的な高実績のデータとして、以下の項目で既存の「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」の要件を大きく上回る施設が存在する。
●緊急往診や看取りの年間件数(加算の要件は緊急往診年15件以上、看取り年20件以上)。
5 .医師配置や重症度などに関するデータで以下に該当する施設がある。
● 在宅医療担当医師を3名以上配置している。
● 重症度の高い訪問診療患者の割合が20%以上。
● 学生実習や臨床研修医などを積極的に受け入れている(医育機能)。

2.厚労省の提案2:連携型在支診・在支病の評価適正化
(1)提案内容
1 .連携型の機能強化型在支診・在支病について、地域の24時間往診体制への貢献度合いに応じて、よりきめ細かく評価する。
2 .これは、常時対応していない施設の評価の適正化(=引き下げ)を示唆したものと言える。

(2)背景とデータ
1 .連携医療機関全体で24時間の連絡・往診体制の要件を満たしている連携型の機能強化型在支診の分析から、対応時間に二極化が見られることが明らかになった。
●1週間当たりに往診・連絡体制を取っている時間が「常時」の場合と、「極めて短い場合」に分かれている。

3.厚労省の提案3:往診時医療情報連携加算の対象拡大
(1)提案内容
1 .「往診時医療情報連携加算」について、現行の評価対象を拡大する。
2 .【現行】 在支診・在支病以外の医療機関が訪問診療を行っている患者に在支診・在支病が往診を行った場合。
3 .【厚労省案】他の在支診・在支病(連携型の機能強化型在支診・在支病を除く)が訪問診療を行っている患者に在支診・在支病が緊急往診を行った場合にも評価の対象を拡大。

(2)背景とデータ
連携型の機能強化型在支診・在支病の一部は、他院のかかりつけ患者の緊急往診や看取りを代行した実績がある。

4.厚労省の提案4:「在医総管」等の評価見直し
(1)提案内容
1 .在宅患者や施設入所者への計画的な訪問診療を評価する「在宅時医学総合管理料」(在医総管)や「施設入居時等医学総合管理料」(施設総管)の評価を、一部適正化する。
2 . 具体的には、要介護度が低いが在宅医療を継続している患者の割合などを勘案した評価に見直すことが提案された。
3 .こうした患者の割合が多い施設の評価の引き下げを示唆したもの。

(2)背景とデータ
1 .有料老人ホームにおいて、医学的な必要性ではなく、付き添う職員がいないという理由で「施設総管」の算定対象になっている患者がいる点などが問題視され、評価の見直しが必要と判断された。具体的には以下のようなデータが示された。
2 .有料老人ホームでは訪問診療回数が月2回の患者が全体の67.1%を占めている。
3 .有料老人ホームにおける月2回の訪問診療の理由では、「施設の職員等が付き添って外来受診することが困難」が過半数に及ぶ。
4 .月2回以上の訪問診療を実施している65歳以上の高齢者における「包括的支援加算」(要介護3以上の場合等が対象)の算定状況を見ると、算定割合が10%以下の医療機関が約13%存在する。
5 .過去1年以内に訪問診療から外来診療へ移行した経験のある医療機関は、約19%程度にとどまる(このデータを示した背景には、適正化対象となる患者を外来に戻すという厚労省の思惑があるとみられる)。

5.関係者の反応
厚労省の一連の在宅医療に関する提案に対する支払側と診療側の見解には隔たりがある。
1 . 支払側: 厚労省の一連の提案(評価の適正化を含む方向性)に賛意を示している
提案4の「在医総管」等の評価見直しについては、▽重要患者に対応しているか、効率的に多くの訪問をしているかでよりメリハリをつけるべき▽患者の状態を見て外来に促すのが望ましいーなどと主張している。

2 .診療側: 評価を適正化する方向性には強く反発している。
提案1の実績のある機能強化型在支診・在支病の手厚い評価では、研修医の受入などの医育機能を求める点を問題視。医療機関の自助努力だけでは満たすことが難しい項目を診療報酬上の要件とすべきではない、と指摘している。

●提案2の連携型の評価適正化については、可能な範囲で在宅医療を提供している医療機関が撤退することになりかねないと反対している。
● 提案4の要介護度に着目した「在医総管」等の評価見直しにも、要介護度が低くても医療の必要性が高い患者がいると反論している。

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谷口久美子(医療ライター)

2025.10.28