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先見創意の会

新型コロナを追う

外岡立人 元小樽市保健所長、医学博士

新型コロナパンデミックも、2019年11月~12月が始まりだと考えると、今年末には3年を経過する。
それがいつ終息を迎えるのかは不明であるが、それを予知するのは現在は無理だろう。

当方は新型コロナを疫学的側面から追い続けてきたが、本当の目的はこの世界史に残るだろう初の本格的パンデミックの足跡を追いながら、そこに大きなストーリーができつつあることに気づいているからである。
 
コロナウイルスは自分の役割をすぐに手放すかのように、変異株を頻繁に作り、役割を次の世代に委ねてゆくように思える。

はっきり言えば色々な変異株名やその特性が明らかになってくるが、臨床的にはそれほどの違いはないように感じる。分析している研究者たちが色々と発表するが、一般社会に於けるこれまでの反応では、人における民族差ほどには、各変異株の間の特性には差は感じていないだろう。

最近の人類の世界での民族差による政治的”いさかい”のほうがウイルス間の闘争よりも遥かに大きそうなことがわかってきた。
変異ウイルスには心がないから、世界の破滅を招かないが、人類にはそれは容易に起きる。
 
2019年10月に中国、武漢市で国際軍人スポーツ競技会なる大会が開かれていた。
巨大な武漢大学には多くの研究室があるが、ウイルス研究も当然行われている。
その研究室の一角で、中国南方の蝙蝠から分離されたコロナウイルスが、研究されていたとしても納得できる。

米国のトランプ元大統領は武漢でのウイルス研究に目をつけた。新型コロナウイルスは武漢で作られたと彼は叫んだのだ。
実は筆者も、武漢で開かれた病理学関係の国際研究会に参加した娘からその話を後で聞いたとき、米国大統領と同じことを半分冗談で考えていた。

一方中国の研究者たちは、ウイルスは大会に出席した米国の軍人たちが運んできたと主張した。米国軍人たちが本国を出るとき、すでに何人かが風邪症状を呈していたとの話も出ていたのだ。
さらに2019年末の11月には、既に武漢で患者が発生していたとする情報も流れた。

結局、現在のところ武漢で12月上旬にウイルスが人に感染し、そこで感染者が増えたのは間違いはないが、その場所は武漢の海産物卸市場であり、ウイルス感染源は売られていた生きた動物(鳥類、ウサギ、ヘビなど)達とされたが定かではない。

コロナウイルスはその後、はるばると欧州へ移動することになるが、中国と交流あるドイツ東部 の企業、イタリア北部の人々の間に広がっていった。

コロナウイルスは小さな遺伝子変異を繰り返すが、特にウイルス表面の感染者の標的細胞に付着するスパイクタンパク(SP)の変異が著しい。1年後には英国でアルファ株という有名な株が主流を占めるようになり、さらに世界に拡大していった。日本でもそれは新型コロナ第三波となり、それなりに医療機関の逼迫状況を招いた。

新型コロナは特性に大きな変化が認められると世界的に恐れられるが、インド発生のデルタ株、そしてアフリカ発生のオミクロン株とそれなりに個性はあったが、結果的にはそれほどの病原性の高まりはなかったようだ。

かつてウイルス分析が容易でなかった頃は、現在の新型コロナのようなウイルスはインフルと区別できなかったと思う。

遠い過去、コロナ株は感冒ウイルスとして何度も流行を起こしたはずだ。死亡する人はそれなりに発生しただろうが、悪性感冒と区別はできなかったと思われる。

日本では新型コロナ発生(2019年末)以降、当原稿執筆時の2022年7月10日まで、感染者は960万人、死者は3万1千人発生している。2年半の期間に発生した感染者数および死者数として、1918年のスペイン風邪よりもはるかに少ない。さらに新型インフルであった1957年発生のアジア風邪や、1968年発生の香港風邪に比較しても、感染者や死者の数は有意に少ないはずである。

現在、2年半流行し続けている新型コロナの位置づけは歴史が判断するだろうが、それはまだ2年は先の話かもしれない。

ウイルス分析技術が発達してなかったなら、どこまでこの新型コロナは診断され、そしてその悪性度はどのように評価されただろうか。それは疑問である。
 
この新型コロナウイルスについて当方が抱いている疑問は多いが、1点を選んでささやかな論議をしたいと思う。もしかしたらSFの話に近くなるかもしれないが、ご了承いただきたい。

2019年12月から翌年3月まで武漢ではそれなりに感染者と死者が相次いだ。しかしその数は、後から評価すると必ずしも膨大ではなかった。そして数カ月ほどで感染者の発生は収束したようだ。

それ以降、今年、2022年3月の上海でのオミクロン株流行まで2年半近く、大きな流行は中国では起きていなかった。世界各国では、数回は様々な大きさの流行が起きているのであるが。

一方、台湾でもこの4月まで新型コロナはほとんど発生していなかった。しかし5月に入って突然、中国の上海での流行を引き継ぐように、狭い国土でオミクロン株が大発生している。6月に入って感染者数はピークを迎えているが、収束は8月に入ってからだろうか。現在は不明である。
 
この間、5月末からの4週間における台湾での感染者発生数は米国に次いで世界第二位であり、死者数も4173人とやはり米国の9220人に次いで世界第二位と異常に多い。欧米各国は1000人台であり、日本は576人と少数であった。

なぜ台湾では以前、ほとんど感染者は出ていなかったのに5月に入って突然新型コロナが大流行し多くの死者が出ているのだろうか。
因みに台湾の人口は2400万人である。
1か月間に4000人の死者が発生とは尋常ではない。中国では急速に感染者数が減っていたせいか、その期間の死者数は20人足らずであった。

付け加えると、2021年に入ってから中国は相当数のワクチン接種を行っている。国内では大きな流行は起きていない状況下であったが、週1億人から2億人を対象に1年半以上続けられている。

台湾も懸命にリーズナブルな方法で国民全体へのワクチン接種を、この1年間続けてきているが、今回突然発生した流行にはそれほど効果はなかったようだ。

中国の不活化ワクチンは、2年近くの間大きな流行を抑え続けてきたようだ。
武漢で新型コロナが発生して以来、人口14億人の中国の感染者数210万人、死者数1万4600人と非常に少ない。因みに日本は、950万人と3万1000人である。中国で製造されている不活化ワクチンの効力は大きく、日本が輸入して使用してきた米国企業のmRNAワクチンがそれほど効果を発揮しなかったのかは分からない。

中国のワクチンは対象ウイルスを想定して、絶えず新規に作製しているのだろうか?不活化ワクチンの製造は容易だろう。製法としては古いが、中国のことである。色々と改良を加えているはずだ。

話はウイルス遺伝子操作の話まで広がりそうだ。余談が果てしなく広がる。
エビデンスに全てが基づいた話でもない、念のため。

なお筆者は医師ではあるが、ウイルス学に関しては素人に近い。読まれる方はそれを十分念頭に入れてストーリーの展開を楽しんでいただけただろうか。

【参照】
COVID-19 Dashboard by Johns Hopkins University
世界各国における新型コロナ発生情報をリアルタイムで世界に発信しているジ
ョンズ・ホプキンス大学のサイト。1日10億回アクセスがある。

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外岡立人(元小樽市保健所長、医学博士)

◇◇外岡立人氏の掲載済コラム◇◇
◆「オミクロン株、その強大な感染力」【2022.1.11掲載】
◆「時代が要求する大きな生活変容」【2021.9.21掲載】
◆「我々をコロナから守るのは新鮮な空気である」【2021.5.25掲載】
◆「コロナ日記」【2021.1.26掲載】

☞それ以前のコラムはこちらから

2022.07.19