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新型コロナウイルスの「mRNAワクチン」とは?

新型コロナウイルス感染症の第3波が到来し、各国が警戒を強める中、イギリスやアメリカでは医療従事者やハイリスクの高齢者などに対するワクチンの接種が始まった。先行する米国製薬企業のファイザーとモデルナのワクチンはいずれも、「mRNAワクチン」と呼ばれる全く新しいタイプのワクチンだ。今回はこのmRNAワクチンについて解説する。
mRNAワクチンの前に、細胞内でタンパク質が作られる工程を簡単に復習してみることにしよう。キーワードは「転写」と「翻訳」だ。細胞の核内にあるDNAに保存された、タンパク質を作るための遺伝情報は、まずRNAにコピーされ、メッセンジャーRNA(mRNA)が形成される(=転写)。mRNAはその後、核から細胞質内に存在するリボソーム(タンパク質とRNAの複合体)に移動し、そこで遺伝情報が読み取られ、タンパク質が合成される(=翻訳)。
このmRNAの働きを活用して開発されたのが、mRNAワクチンだ。新型コロナウイルスの感染は、ウイルス表面に突起しているスパイクと呼ばれるタンパク質(=Sタンパク質)が、ヒトの細胞にある受容体と結合して細胞内に侵入することで起こる。mRNAワクチンは、このSタンパク質を作る全て、あるいは一部の遺伝情報を人工的に組み込んだmRNAを、体内で分解されることのないよう脂質などの膜で覆って投与する。ワクチンのmRNAが細胞に届くとただちに翻訳が開始され、リボソーム上で翻訳された遺伝情報を基に新型コロナウイルスのSタンパク質が産出される。すると、これを異物として認識し、無害化しようとする免疫機能が働いて抗体ができるという仕組みだ。

DNAワクチンとは何が違うのか?

基本的な仕組みは先に紹介したDNAワクチン(国内バイオベンチャーのアンジェスが開発。現在、500人を対象にした第2/3相臨床試験が進行中)と変わらない。両者の大きな違いは、「転写」から「翻訳」に至る工程の差にある。Sタンパク質の遺伝情報そのものを細胞内に届けるDNAワクチン(正確には、遺伝子の運び屋であるプラスミドDNA)の投与の場合は、免疫を獲得するまでに、遺伝情報のRNAへの「転写」と遺伝情報の「翻訳」の2つの工程が必要である。これに対して、mRNAは「翻訳」の1工程だけで済む点だ。 また、生ワクチンや不活性化ワクチンのようにウイルスそのものを使用することはなく、役割を終えたmRNAは体内で分解されるために安全性は高いと考えられ、短期間で開発・生産できるメリットは、DNAワクチンと変わりないと言われている。
ファイザーのワクチンは、昨年末に日本国内における承認申請が行われており、菅義偉首相は1月4日の記者会見で2月下旬までに接種を開始できるように準備を進める意向を明らかにしている。一方、モデルナのワクチンは武田薬品を通じて日本に導入されることになっており、今月にも日本での治験が始まる見通しだ。(注:1月5日時点の情報)
著者:医療ライター・谷口久美子
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