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医療機器メカトロニクス
病院で何気なく目にする様々な医療機器、その仕組みや原理等を分かりやすく解説します。
(解説者:医師 北村 大也)
第9回 『心電図』  
連載1 ― 「心電図の基本的知識(その1) −心電図とベクトル−」
(掲載日: 2007.11.30)
 夜も更けて、入院患者さんの多くが眠りについている頃、ときおり鳴るナースコールと対応する看護師の声以外、一般病棟は静寂に包まれています。

 しかし、手術直後の患者さんや状態の悪い患者さんが入院している部屋からは、ピッ、ピッ、と規則正しい作動音が聞こえています。患者さんの胸には電極が付けられ、電極から伸びたコードはベットサイドのモニターにつながれています。モニターの黒色の画面には緑色の線が波打ち、心臓の電気的活動を伝えています。

 心電図の歴史は古く、1900年頃オランダのアイントーベンが初めて人間の心電図を測定しました。100年が経過した現在その臨床応用も進み、心筋梗塞や不整脈の診断、術後患者のモニタリングなど心電図は医療現場を支える基本的な医療機器となっています。

 心電図の原理はどうなっているのでしょうか? 今回の連載では、まず電気活動を捉えるために必要なベクトルの知識について説明していきます(なぜベクトルの知識が必要かはあとで説明します)。次に、心臓の動きを制御する電気活動のしくみ、そして最後が心電図の原理になります。

1.ベクトルとは何か

 ベクトルって何だか覚えていますか? 簡単に言うとベクトルは「向き」と「大きさ」をいっぺんに表す「量」です。

 本が10冊あるとか、身長が170cmあるというのは「大きさ」だけを表していますよね。では、飛行機が100km飛んだとしたらどうでしょう。100kmという「大きさ」で知ることができるのは、飛んだ距離だけです。どの向きに飛んでいったかは分かりません。そこで、「大きさ」だけでなく「向き」もいっしょに表してしまえというのがベクトルです。

2.立体的な電気変化を表現

 なぜ、ベクトルの知識が心電図に必要なのでしょうか。まず簡単な電気回路の電圧測定を考えてみましょう(図1)



  電圧計の目盛りを読めば、AB間の電圧という「大きさ」は分かります。この場合、「向き」は関係ありません(実際は、電流の流れる方向によって電圧は+か−となるので、厳密に「向き」は関係ないとは言えません)。「大きさ」が分かれば事足ります。

 しかし、心臓は電線と違い立体的な形をしています。そのため、心臓を流れる電流の電圧を測定する際には「大きさ」だけでなく、「向き」も評価しなければなりません。心電図検査では10個の電極を使い(図2-a)、12個の心電図波形を測定します(図2-b)。これにより、どの「向き」にどれくらいの「大きさ」の電流が流れたかが分かります。

 

<POINT!>
心臓の拍動は電気現象のため、ベクトルとして考えることができる
心臓が立体であることから、心臓を流れる電流の電圧を測定する際には、「向き」と「大きさ」を評価する必要がある。

連載2「心電図の基本的知識(その2) −ベクトルの性質1−」 >>
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