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医療機器メカトロニクス
病院で何気なく目にする様々な医療機器、その仕組みや原理等を分かりやすく解説します。
(解説者:医師 北村 大也)
第8回 『パルスオキシメータ』  
連載7 ― 「パルスオキシメータの原理」
(掲載日: 2007.11.23)
<< 連載6 「酸素を運搬する人体の生理(その3)−ヘモグロビンと酸素飽和度−」
 物質の色は、光の反射や吸収、透過で決まることは説明しました。幅広い波長の光を含んだ光(混合光)を物質に当てると、物質の種類に応じて特定の波長の光を吸収します。

 吸収されなかった光は物質を透過、あるいは反射して人間の目に入ります。これにより人間は色を認識するわけです。

 色の認識は生理的な現象として考えなければいけませんが、パルスオキシメータの原理を理解するためには光の吸収という現象を科学的に考える必要があります。

1.血液の吸光度

 パルスオキシメータは、動脈血中のヘモグロビンがどれくらい酸素と結合しているか(酸素飽和度)を測定します。

 ヘモグロビンは、酸素と結合した「酸化ヘモグロビン」と結合していない「還元ヘモグロビン」に分かれますが、酸素飽和度は全ヘモグロビンのうち何パーセントが酸化ヘモグロビンとなっているかで表されます。

 光の吸収でなぜ酸化ヘモグロビンの比率が分かるのでしょうか? これは『ランバート・ベールの法則』で説明されます。

 (1)ランバート・ベールの法則

 ある物質がどれくらい光を吸収するかを吸光度と言い、吸光度は分光光度計を使って測定することが可能です。

 さて、ここである物質が溶けた液体について考えてみましょう。

 当然ですが、この液体も光を吸収します。この時、入った光が通過する距離が長くなればなるほど、溶質の濃度が濃くなればなるほど、吸収される光の量は多くなります。

詳しい式は省きますが、これが『ランバート・ベールの法則』です。(図17) 

 この法則により、ある液体中の溶質の濃度を知ることが可能になります。

(2)溶質が2種類の水溶液(血液など)の場合

 では、溶質が2種類の場合はどうでしょうか。この場合は、2種類の波長の光を当ててその吸光度を測定することで、その物質の相対濃度を知ることができます。

 したがって、血液は2種類の波長の光を当てることによって、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの相対濃度を知ることが可能です。酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの吸光スペクトルを図18に示しました。
 
 この図から分かるように、酸化ヘモグロビンは赤外光付近の光(波長940nm)をよく吸収し、還元ヘモグロビンは赤色光付近の光(波長660nm)をよく吸収します。

 この事実は、ヘモグロビンの色(血液の色)についての事実と一致します。酸化ヘモグロビンが赤いのは、赤色光をあまり吸収しないで反射するため。

 還元ヘモグロビンがやや青みがかった赤になるのは、酸化ヘモグロビンより赤色光を吸収するからです。実際のパルスオキシメータでも、赤色光と赤外光を利用して相対濃度を測定しています。

2.動脈血の酸素飽和度

 原理について大まかには説明してきましたが、まだ解決しなければいけない問題もあります。実際のパルスオキシメータを見てみましょう(図19)



  パルスオキシメータの発光部分から発生した光は、爪、皮膚、その他の組織、静脈血、動脈血を透過して受光部分に到達します。

 この時の吸光は、動脈血だけの吸光ではありません。すべての組織をひっくるめたものになっています。体の呼吸状態を知るために一番重要なのは動脈血中の酸素飽和度ですが、そのためには全吸光の中から動脈血の吸光を抽出しなければなりません。しかし、これも動脈血の拍動性から解決可能です。

 経時的に吸光度を測定していくと、吸光度は動脈血の拍動と共に変動していきます(図20)。吸光全体から不変な成分を差し引けば、動脈血による吸光成分のみが残ることになり、これを測定することができます。



3.パルスオキシメータの特徴

 パルスオキシメータには2種類の発光ダイオードが使用され、1秒間で500回以上の点滅を繰り返しデータを測定します。

 この測定したデータを5〜10秒分まとめて平均し、計算した酸素飽和度を1秒ごとに表示していきます。これによりほぼリアルタイムで酸素飽和度を測定することが可能です。

 その他の特徴としては、患者さんに苦痛を与えない(傷つけない)、使用方法が非常に簡便である、などが挙げられます。

<POINT!>
  パルスオキシメータは、指先を発光ダイオード内蔵のセンサーではさみ、動脈血の酸素飽和度を測る器械である。
  動脈血の酸素飽和度は、吸光度全体から拍動に対応した動脈血の吸光成分のみを抽出することにより測定できる。
  パルスオキシメータは、酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの吸光特性を利用して2種のヘモグロビンの比率を測定している 。
   ○ 酸素飽和度が高い場合:酸化ヘモグロビンは近赤外光(波長940nm)をよく吸収するので、赤色光が多く検出される。
 ○ 酸素飽和度が低い場合:還元ヘモグロビンは赤色光(波長660nm)を吸収するため、近赤外光が多く検出される。

■おわりに

 動脈血の酸素飽和度を測定できるパルスオキシメータが開発されたのは1971年、日本の医用工学者、青柳氏によってでした。それから30年以上を経過した現在では、体温計や血圧計とともに基本的なモニター機器と言って良いでしょう。

 その原理を理解するに当たっては、光の吸収や視覚現象について理解する必要がありますが、高校までの物理では習わないことばかりです。

 しかし、この部分をあいまいにしてしまうとパルスオキシメータの原理はしっくり理解できません。何となくは知っているけれど、よくは分からない…。今回の連載がそんな方の理解の助けになれば幸いです。

■参考文献■
 1)諏訪邦夫:パルスオキシメーター.中外医学社,1982.
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