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医療機器メカトロニクス
病院で何気なく目にする様々な医療機器、その仕組みや原理等を分かりやすく解説します。
(解説者:医師 北村 大也)
第5回 『MRI(核磁気共鳴画像法)』  
連載4 ― 「MRIの仕組み」
(掲載日: 2007.06.29)
<< 連載3 「MRIの原理(その3) ― 核磁気共鳴現象 ― 」

 頭部のMRIを撮影するときを考えてみましょう。頭部全体の画像を得るためには図7のようなスライス写真をたくさん撮る必要がありますが、まず話を単純化するために1枚のスライス写真をとるケースを想定します。(図7)

図7 頭部のスライス写真

 MRIでは、共鳴現象を起こす原子核のうち水素原子核(H)の核磁気共鳴現象を利用して画像を得ています。人間の体の3分の2は水(H2O)でできているので、体内に水素原子核は多く存在していて、測定には非常に都合がよいと言えます。

 まず超伝導磁石を用いて一定の磁場(静磁場)を発生させます。これにより体内の水素原子核は一定の方向を向くことになります。次にラジオ波を照射して、吸収された後放出されるラジオ波を測定します。測定されたラジオ波をコンピュータで処理することによってデータを画像化していきます。

 人体内の水素原子核は各部位によって含まれる量や状態が様々です。画像を得るためにはどの部位の水素原子核のデータを得たかが分からなければなりません。そこでまず、どの断面のスライス写真を撮るか決定するために傾斜磁場を発生させます。それによりその断面内のどの部位からのデータか分かるようになります。

 傾斜磁場とは場所によって磁場強度が違う磁場のことです。前回(連載3)で書いたとおり、共鳴周波数は磁場の強度に比例するので、測定したい断面に合わせた周波数のラジオ波を選べば、その断面のみを共鳴させることができます(図8)。これで欲しい断面の選択が可能になります。

図8 スライス選択傾斜磁場

 その断面の中での水素原子核の位置情報を得るためには、更に別の傾斜磁場(周波数エンコーディング傾斜磁場・位相エンコーディング傾斜磁場)を用います。エンコーディングとは、データを変換するという意味です。傾斜磁場をタイミングや持続時間を変化させながら発生させると、水素原子核スピンの周波数と位相というデータが断面のそれぞれの部分で変化しますので、位置情報が得られることになります。(図9)。

図9 位相エンコーディング×周波数エンコーディング

 そのようにして測定を行い、得たデータを解析すると、水素原子の分布とその結合の状態を反映した1枚のスライス写真ができ上がります。このプロセスを繰り返して頭部全体に及ぶ数十枚のスライス画像を作成していきます。

 簡単に言うと、MRIは原子核の「核磁気共鳴」という現象を利用して、人体に多く含まれる水素原子の分布やその状態を反映した画像を得る検査法ということです。水素原子の状態を反映しますから、そこに何があるという位置情報だけでなく、その性質の変化までとらえることが可能です。

 一方、CTは物質のX線吸収率の違いを利用して画像を得る検査です。

(補足)  「磁場の強さ」:磁場の強さを表す単位には、テスラ(T)が用いられます。一般的なMRIでは、1テスラや1.5テスラといった磁場の強さのものが使用されます。身近な例で示すと、肩凝りに使う家庭用磁石入り絆創膏(商品名:ピップエレキバン)は80ミリテスラ、つまり0.08テスラです。地球の磁場は、0.00003〜0.00007テスラくらいです。

<POINT!>
 MRIは、体内に多く存在する水素原子中の原子核の核磁気共鳴(NMR)を利用している。
 MRIでは、3次元の位置情報を得るためにスライス選択傾斜磁場と、周波数エンコーディング・位相エンコーディングを行い、2次元フーリエ変換により断層画像を構成する。

 次回は、MRIの得意、不得意をCTと比較しながら説明していきます。

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