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医療機器メカトロニクス
病院で何気なく目にする様々な医療機器、その仕組みや原理等を分かりやすく解説します。
(解説者:医師 北村 大也)
第2回 『レントゲン』  
連載3 ― 「 放射線による被ばく」
(掲載日: 2007.03.23)
<< 連載2 「レントゲン(X線)の正体」  
連載1、連載2を通して、レントゲン、いや「X線」がどういったものか分かっていただけましたか?

 医療現場で非常によく利用されているX線ですが、注意しなければいけない性質もあります。X線は放射線の1種ですから、「被ばく」について知っておく必要があります。

1.被ばくの問題

 レントゲンを撮るとがんになる?妊娠中にはレントゲンを撮らないほうがいい?このような不安が、1度は頭をよぎったことがあるのではないでしょうか。

 結論から言えば、X線診断で放射線に被ばくすることによって、放射線障害が出現することはありません。

 例えば、骨折をしてレントゲン(X線写真)をたくさん撮ったとします。そのせいでがんや白血病になることはまずありません。妊娠中に胸のレントゲンを撮っても、それが原因で奇形の子供は生まれてきません。

 どうして大丈夫なのでしょうか? それは、照射される放射線の量が少ないからです。大量の放射線を浴びなければ、白血病になったりすることはありません。

 しかし、放射線治療は別です。がんの治療に使われる放射線はX線診断の放射線に比べて大量の放射線を照射するために、副作用としてさまざまな放射線障害が現れることがあります。

 放射線とは何なのか。詳しく知る必要が出てきました。

 まずは、放射線の定義・単位・作用を解説してから、人体への影響を話していくことにしましょう。

2.放射線とは

(1)放射線の定義

 一般に、不安定な状態にある原子は安定な状態になろうとし、そのときにエネルギーを放出します。これが「放射線」です。放射線は目に見えず匂いもしませんが、空間を伝わりエネルギーを伝えます。

 放射線の種類には、粒子からなるアルファ線・ベータ線・中性子線などの「粒子線」とX線・ガンマ線などの「電磁波」があります。

 放射線を出す能力のことを「放射能」、放射線を出す物質を「放射性物質」と言います。自然界にも天然の放射性物質が存在していて、カリウム40(カリウムの1種)やラドンが有名です。ラドンは、ラジウムから生まれた気体の放射性物質です。ラドン温泉に入ると、ラドンを呼吸で体内に取り入れていることになります。

 また、宇宙に存在する放射線である宇宙線は絶えず地球に降り注ぎ、大地からも絶えず放射線は照射されています。

 つまり、放射線は人工的に作られたものだけではなく、あたりまえに自然界に存在しているものということです(図6)。日本では、平均すると年間約1ミリシーベルト(mSv)程度の放射線を受けていると言われています。

図6:日常生活における自然放射線と人工放射線の種類と量

(2)放射線の単位

 放射線の量を測る際によく使われる単位にはグレイ(Gy)とシーベルト(Sv)があります。

○グレイ(Gy): 放射線が物質に当たったときに物質に吸収されるエネルギーを「吸収線量」と言い、単位をグレイで表します。

 1グレイは1kgのものに1ジュール(J)のエネルギーが吸収されるということです。1ジュールはカロリーにすると大体0.25カロリーです。ごはん茶碗1杯(150g)が250キロカロリーです。キロ(K)は1,000倍を表すので、1グレイが与えるエネルギー1ジュールは、ごはん1杯の100万分の1しかありません。そんなわずかなエネルギーでも、人体に与える影響は非常に大きいものがあります。

○シーベルト(Sv): 放射線が人体に与えた影響を「実効線量」と言い、単位をシーベルトで表します。

 放射線は、種類により人体に与える影響が違います。X線やガンマ線に比べて、中性子線・アルファ線は与える影響が大きくなります。X線・ガンマ線では1グレイ=1シーベルトですが、中性子線では1グレイ=10シーベルト、アルファ線では1グレイ=20シーベルトにもなります。

(3)放射線の作用

 放射線が人体や物質に当たったとき、どのような影響があるのでしょうか。

 人体も含め、すべての物質は原子から構成されています。原子をさらに細かく見ると、陽子と中性子からなる原子核とその周りを回る電子で構成されています。

図7:電離作用 放射線が物質に当たると、その原子にエネルギーを与えて、原子から電子を分離します。これを「電離作用」と言います(図7)。

 人間の細胞も原子から構成されているため、その影響が細胞に及びます。影響が大きい場合、細胞は死んでしまいます。細胞死を起こさなくても、DNAに障害が起きれば、後でがんなどを発生する可能性があります。また、生殖細胞(子供を作るための細胞:精子や卵子)に障害が及ぶと、奇形や病気などの遺伝的影響が起こる可能性があります。

<POINT!>
検査のためのX線診断で受ける放射線の線量で放射線障害が出現することはないが、放射線治療の線量は大量なため、さまざまな障害が現れる。
放射線を出す能力のことを「放射能」、放射線を出す物質を「放射性物質」と言う。
放射線の種類:
 「粒子線」粒子からなるアルファ線・ベータ線・中性子線など
 「電磁波」X線・ガンマ線など
日常生活でも自然に放射線を浴びており、日本では1年間に約1ミリシーベルトである。
放射線が人体に当たると、「電離作用」による影響が細胞に及び、細胞死やDNAへの障害などを引き起こす。

 次回は、放射線が人体に及ぼす影響についてです。影響の現れる線量(しきい値)があるか、だれに、いつ現れるか、に着目して分類する方法を紹介します。

  連載4 「放射線の影響(その1) ―人体への影響の分類― >>
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