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医療機器メカトロニクス
病院で何気なく目にする様々な医療機器、その仕組みや原理等を分かりやすく解説します。
(解説者:医師 北村 大也)
第1回 『AED(自動対外式徐細動器)』  
連載4 ― 「AEDだけで救命できるのか」
(掲載日: 2007.02.23)
<< 連載3 「『居合わせた人』がAEDを使う重要性」  
今回は、AEDと合わせて行えば、“命を救う究極の組み合わせ”と言われる「心肺蘇生法」について説明します。

1.AEDと心肺蘇生法は救命の両輪

 では、倒れている人には、AEDさえ行えばよいのでしょうか?

 いいえ、AEDと並んで非常に大事なものがあります。それは「心臓マッサージと人工呼吸」です。運転免許を持っている方は教習所で習っているはず。人形を患者に見立てて行ったのを覚えていませんか?

(1)心肺蘇生法

 心臓マッサージと人工呼吸をまとめて「心肺蘇生法(CPR:Cardio Pulmonary Resuscitation)」と言います。“全身の組織に酸素を送るため”の処置です。

 心肺停止になり血液の循環が停止してしまうと、全身の組織は酸素が供給されない状態(虚血)におちいります。特に脳組織は虚血に弱く、常温で4分を経過すると脳細胞は死に始め、たとえ心拍が再開し酸素が供給されるようになっても致命的な障害を残すことになります。例えば、心臓は動くようになったが意識は戻らないといったことが起きます。最終的に脳死状態になってしまうこともあります。こうなる可能性を少なくするためにCPRを行います。

(2)救命のポイント

 まず、心臓マッサージと人工呼吸を行い全身、特に脳に血液を送り込み虚血状態になるのを防ぎます。そして、その間にできるだけ早くAEDを使用する。これが救命のポイントです。

 除細動が1分遅れるごとに救命率は7〜10%減少することは、すでに示しました。しかし、除細動をかけるまでの間にCPRを早期に行えば、救命率の減少を3〜4%までに抑えられます(図7)。

図7 心停止後の除細動時間と救命率の関係
 
つまりAEDとCPRはお互いなくてはならない救命の両輪ということです。

2.AEDとCPRの習得が身近な命を救う

 CPRとAEDによる除細動などを含めて「一次救命処置(BLS:Basic Life Support)」と言い、一般の人々が現場で行う処置になります。そして、それは救急隊、病院での「二次救命処置(ALS:Advanced Life Support)」に引き継がれていきます。

 普段生活していて人が倒れるのを目撃することはほとんどありません。筆者自身も病院外で心肺停止の患者さんと遭遇したことは一度もありません。病院内では何度となく心肺蘇生を行いましたけれど。医療従事者でない人が一次救命処置を習ってもほとんど使うことはないでしょう。

 しかし、ちょっと待ってください。もし自分の周りの大切な誰かが急に心肺停止になってしまったらどうですか?目の前で知らない人が急に倒れたら?

 その人にも大切な家族がいるでしょう。少しでも多くの人が一次救命処置を習い、ひとりでも多くの人の命が助かってほしいと思います。現在、日本国内では消防本部や日本赤十字社による普通救命講習が行われています。それ以外にも、有償で講習を行うMedic First Aidといった団体も存在します。是非皆さんにもこういった講習会に参加していただき、一次救命処置(BLS)を覚えていただきたいと思います。

  <POINT!>
心肺蘇生法とは、「心臓マッサージと人工呼吸」のこと。全身の血液(酸素)の循環を維持し、特に脳組織に酸素不足からくるダメージを与えないために行う処置。
CPRとAEDを両方行うことで、救命率が格段に向上する。
BLSの講習会に参加し、いざというときに自信をもって救命活動にあたろう。

 次回は、いよいよ最終回です。心肺蘇生に対する世界と日本の取り組みを紹介します。
  第1回 最終連載 「心肺蘇生に対する世界と日本の動き >>
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