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(掲載日 2006.05.30)
連載番外編 「アジアの黙示録」
投稿者  澤 倫太郎
 日本医科大学生殖発達病態学・遺伝診療科 講師
 本サイトの連載稿「韓国ES細胞捏造事件の闇の奥」の中で筆者は、黄教授のES細胞捏造事件から見えてくる事象から、急速に変化する東アジア情勢の近未来をとらえようと試みてきた。事実を並べていくことで見えてくる未来とは何なのか?その意味で現代の預言書・黙示録ともいうべき映画「地獄の黙示録(Apocalypse Now)」(注1)の原作であるイギリス作家コンラッドの作品「闇の奥(Heart of Darkness)」(注2) を連載のタイトルに据えたのである。

 ネット社会における半島統一思想・親北派の跳梁、目覚しい経済発展の先にある資源闘争の帰結として、中国のアメリカ対極化、そして「半島統一」に向けて急速に収斂していく半島情勢は予見できた。しかし今年に入り、筆者の予想をはるかに上回るスピードで、事態は進んでいる。この稿では、連載ではカバーしきれない部分を「番外編」として会員諸氏にお伝えしたいと思う。

■早すぎる在日同胞の融和

 5月17日、在日本大韓民国民団(民団)の河丙ト(ハビョンオク)団長と在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の徐万述(ソマンスル)議長が、60年間にわたる対立関係を解消して和解するため、東京都千代田区の朝鮮総連中央本部で会談した。

 両団体のトップは初めて正式な場で会談し、和解と団結をうたった共同声明に署名した。共同声明の中には日本の植民地支配からの解放を祝う8月15日の記念行事の共同開催などが具体的に盛り込まれている。韓国と北朝鮮の祖国統一に向け、在日韓国・朝鮮人の連帯が第一歩を踏み出した格好だ。

 共同声明で、双方は、この日の会談を「歴史的な出会い」と表現し、2006年6月の南北首脳会談の「南北共同宣言」で謳われる「わが民族同士」の理念に従い、長年続いた反目と対立を和解と和合に転換させることを確認した。そして「豊かな在日同胞社会を建設し、祖国統一と繁栄に大きく貢献する意志」を表明したのであった。

 「これを予見していたのか?」

 連載「韓国ES細胞捏造事件の闇の奥」を読んでくださっている多くの会員からこういう意見をいただいた。しかし今回のできごとは全くの予想外だった。筆者にとってもこれは驚天動地の出来事だった。北朝鮮帰国事業をめぐる攻防など、これまでの両団体の長年の「イデオロギー」闘争の歴史からも、半島の統一より難しいと思われてきた在日同胞の、祖国より一足早い統一である。しかし、筆者が何より驚いたのは、今回の動きは民団(在日韓国)からの働きかけであったことなのだ。

 連載3「韓国研究者のエクソダス」でも述べたが、韓国の現在の与党・慮武鉉(ノ・ムヒョン)政権はバリバリの親北・太陽政策提唱者である。本国では6月末に「太陽政策」主催者金大中前大統領(DJ)の再訪朝が実現するが、この再訪朝の延長線上にあるのが、年内の慮武鉉訪朝、金総書記との南北首脳会談にあると言われている。これは、2007年の大統領選を控えて、今回のES細胞捏造事件などですっかり国民の評価を落とした慮武鉉政権にとっては、絶好の浮揚材料となるはずである。

 一方、朴正煕パク・チョンヒ大統領の長女である朴槿恵パク・クネ氏が率いる野党ハンナラ党も力をためつつある。事実、慮武鉉政権の急速な左傾化や、いっこうに回復する気配のない経済に嫌気のさした韓国国内の「新・保守派」は、大衆受けを狙った慮武鉉政権の発言が、韓国の評判を落とし、国際社会から孤立することを憂慮している。そして民団に属する在日韓国人たちの多くも、現政権には批判的なメンタリティを持つとされる。

 このことは、いま日本国中の注視を集めている北朝鮮による日本人拉致問題に対して同情的な民団と、あくまでも無関心を装う総連の態度からも見て取れる。5月に韓国を訪れた拉致被害者家族の横田滋氏に対して、韓国統一省は「なぜ会う必要があるのか?」という冷酷な対応に終始した。一方で、野党ハンナラ党は大統領候補・朴槿恵パク・クネ氏が直接面会すると対応の違いをみせつけた。そして、民団の軸足は、この野党ハンナラ党に置かれているのである。 それならばなぜ、本来なら野党支持者であるはずの民団が、今に至って総連という宿敵に歩み寄ったのだろうか?

 これを読み解く背景のキーワードは2つ。ひとつは米軍の再編成(トランス・フォーメーション)である。今回の米軍再編は、単に米軍の移転・再配置をめざすものではなく、軍事技術の進展に伴う軍事戦略の見直しが基本にある。今回の米軍再編の目玉の一つに、米軍・海外基地の縮小、米兵撤収があるが、アジアにおける軍事戦略上の最も重要なポイントは、在韓米軍基地の大幅な移転・縮小であろう。これがどういう意味をもつのか?

 半島には米国の対極として台頭してきた中国とは陸続きにあるという地政学的背景がある。在米軍基地の移転・縮小が進めば、韓国政界において、これまで保たれてきたのと同じ力関係に基づいた議論は成り立たなくなる。

 もうひとつの背景は、5月末に行われる韓国地方統一選だ。これは来年行われる大統領選を占う重要な総選挙である。日本ではほとんど報道されないが、ここでの最大の政策論争となりつつあるのが、対日外交問題である。中でも、焦点になっているのが「竹島領土問題」である。そして、不幸なことに、与野党ともが、強硬な対日姿勢を競い合っているのが現状である。


 竹島の領土帰属に関しては、本稿ではあえて触れないでおく。多くの専門家が指摘するように、こうした国連海洋法条約が規定する紛争に対しては、オランダ・ハーグの国際司法裁判所の判断に委ねればよいだけのことだ。しかし1954年の韓国による同島不法占拠以来、今に至るまで、度重なる日本からのハーグ付託の提案に、韓国側は応じようとしていない。

 ご存知のように、4月中旬の海上保安庁による竹島周辺海域の海洋調査をめぐり、日韓両国は紛糾した。今回の竹島問題紛糾の火種は、海底地形の名称だ。竹島周辺海域には「大和堆」や「隠岐堆」など日本の名称がつけられている。しかし李承晩ラインを正当化したい韓国は、6月にドイツで開かれる国際水路機構(IHO)会議において、これらの海底地形の名称を韓国語の名称に変更する提案を提出するつもりであった。これに対する日本側の牽制が、海保による海洋調査だったのである。4月20日には柳明恒外交通商省第一次官は「海保の測量船が韓国の排他的経済水域(EEZ)を侵犯した場合は、国内法(95年制定の海洋科学調査法)に基づいて拿捕する」と発言した。

 日本政府の一部では、海保の測量船拿捕が実行された場合のシミュレーションもできていたとされる。拿捕されれば、この領土問題は間違いなく国際紛争として位置づけられ、ハーグ国際司法判定所に委ねられる。となれば、改めて韓国の竹島実効支配が、国際法上は違法なものであったという司法判断が下される可能性が高い、というのが官邸の一部の読みであった。

 これに対し、韓国側も「紛争化」をすでに想定内の事態ととらえ、4月18日に国連事務総長に国連海洋法条約298条を付託している。この298条とは「ハーグに提訴された事案そのものを応じる義務が無いと宣言できる」条項なのである。

 韓国外交通商部の声明はこうだ。

 「政府は18日、国連海洋法条約の298条にのっとって、一方的提訴によって国際裁判所に紛争問題解決に向けた付託ができると定めている国連海洋法条約の強制紛争解決手続きを排除するための宣言書を国連事務総長に提出した。そしてこの措置は、国連に提出すると同時に発効する」

 「これにより、国際司法裁判所、国際海洋法裁判所、仲裁裁判所、特別仲裁裁判所のいずれにおいても、韓国が、海洋境界区画設定、軍事活動、海洋科学調査及び漁業に関する法の執行活動、国連安全保障理事会の権限遂行に関する紛争によって提訴される可能性はなくなった」

 しかし、にわかに高まった緊張も、4月22日に「6月のIHO会議での海洋地形の韓国名称の提案をしない代わりに、海保の海洋調査をやめる」という交渉内容で、一度は合意したかに見えた。しかし、この合意内容に、今度は野党ハンナラ党が噛み付いた。「弱虫外交・へたれ外交」の批判が韓国国内に高まったのである。

 この批判にさらに火を注いだのが「日本が韓国を守勢に追い込んだ」と報じた中国・新華社通信だ。これを受け、慮武鉉大統領は4月24日、大統領緊急特別談話を発表する。それは「独島(ドクト)は我々の領土だ。日本はドクト付近の海底地形も不当に占有しており、我々がそれを正そうとするのは当然だ」というものだ。

 いくら「内政の延長線に外交がある」のが真理とはいえ、この大統領緊急特別談話には驚かされる。それだけ総選挙における現政権の状況は厳しいとみるべきだろう。しかしこの発言を境にして、韓国の5月総選挙は一挙に「民族的団結を競う愛国選挙」の様相を呈することとなった。そして「竹島(独島)領土問題」がその象徴とされているのである。

 在日同胞たちの、祖国より一足早い「南北統一」の裏側には、この切羽詰った祖国の選挙戦を反映していると見るのが妥当であろう。そして、この民団の誘いかけは、昨年から始まった、国内での警視庁公安部の強制捜査を恐れる朝鮮総連にとっては、まさしく「渡りに船」であった。在日同胞たちの共同声明の内容はこうだ。

 (1)在日同胞社会の民族的団結のための協力(2)南北首脳会談を記念して韓国光州市で6月開催予定の「6・15民族統一大祝典」への共同参加(3)植民地支配からの解放を記念する「8・15記念祝祭」の共同開催(4)教育、民族文化振興での協調(5)福祉、権益擁護活動での協調(6)問題解決の窓口設置。

 38度線から遠く離れた日本で、同じ民族同士の不毛ないがみ合いは確かに不幸なことだ。両団体の間には、これまでも「ワン・コリア・フェスティバル」と称される「インターネット」を介した若者たちの国境を越えた友好事業はあった。しかし、今回の突然の決断に対し、古くからの民団幹部の一部からは「早すぎる統一だ」という躊躇の声もあがっているのも、また事実なのだ。(注3)

 いずれにせよ5月末の韓国総選挙は、今後の日本の東アジア外交を占う意味でも非常に重要である。場合によっては再度、竹島領土問題が紛争化するリスクを内包しているからだ。

■米国にとってアジアとは何か?

 筆者にとってもうひとつ予想外だったのは、これらの半島情勢に気味の悪いほど見事に呼応する鏡像(ミラー・イメージ)として、ちょうどポジ・ネガの点対称で、もうひとつの頂点に収束するわが国の輪郭である。

 半島の事情を把握したうえで、半島から日本へと視点を移してみれば、IT産業の寵児の逮捕、単純なインターネット上のフェイクに振り回される国政、もはや「愛国」がひとつの踏み絵となりつつあるポスト小泉への暗闘、北朝鮮拉致被害者をめぐる不思議な因縁、そしてワン・イシューの選択を争う総選挙と、いずれをみても日韓両国におけるいずれの事案も、「インターネット」と「ナショナリズム」のキーワードでくくることの出来る、同一事象のミラー・イメージとして解析することができるのだ。2つの鏡像の違いはひとつ、同盟国として、米中のどちらに軸足を置くのか?−だけなのである。

 そして日韓にこの違いを生じさせたのが、先述した在アジア米軍の再編成(トランス・フォーメーション)である。近い将来に確実に直面する中台問題に呼応する形で行われたこの戦後代大規模の大掛かりな戦略変更の特徴は、「米軍の半島からの大幅な撤退」と、「ますます比重の増す『沖縄』のプレゼンス」から成る。

 管見するに、米軍再編と沖縄の重要性に関しては、「沖縄タイムス」の連載記事「米軍再編とオキナワ」が際立っている。特に「アメリカ新世紀プロジェクト」事務局長のゲーリー・シュミット氏のインタビュー記事は米軍の行動原理の核心を突いている。

 「米国人は戦闘で死傷者が出ることには理解を示す。歴史的に見ても軍事作戦上、目標に成功の見込みがあれば、かなりの死傷者が出ても耐えるだけの度量はある。われわれ同盟国が精神的に弱いのだと敵対勢力は思いたがるが、彼らは民主主義国家が持っている犠牲を出す強靭さを過小評価している」

 「ただ、目標への国民の認識が消極的に変わるなら、すぐにでも一人か二人の死傷者で世論の流れを変えることは十分にあり得る」

 この読みは、シュミット氏が諜報活動の専門家で国防総省コンサルタントでもあったキャリアから見ても説得力がある。いまや米軍の軍事活動の最大の敵は、国内外に蔓延し始めた厭戦(war weariness)(注4)なのである。

 20世紀に米国が経験してきた太平洋戦争、朝鮮戦争、ベトナム戦争と続いたアジアにおける戦争終了後、ハリウッドで初めて、それまで禁忌とされてきた「アメリカの戦争」を批判し、厭戦(war weariness)をメイン・テーマにしたのが、「地獄の黙示録(原題:Apocalypse Now)」(1979年)である。そしてこの映画のなかで、ジャングルの奥の独裁者カーツ大佐(ローマン・ブランド)は、捕虜になった主人公にこう尋ねるのだ。

 「君に、そしてアメリカに光が見えるか?」

 そしてこの「Apocalypse Now:現代の黙示録)」を通じて、カーツ大佐は我々にも問いかけているのである。

 「いまのアメリカに、そして同盟国・日本に、光は見えているのだろうか・・・?」

 ぎりぎりと音を立てながら、ねじれ、緊張して行く21世紀の東アジア情勢のなかで、我々はこの問いにどう答えたらいいのだろう?

 聡明なわが会員諸氏よ、あなたならどう考える?

(注1)
 「地獄の黙示録」が「黙示録:現代の預言書」とされる、象徴的な場面を紹介しよう。

★ SCENE-1 ワルキューレの男

 会員諸氏の多くも思い浮かべる映画「地獄の黙示録」の名場面といえば、小泉首相もお気に入りのワーグナーの「ワルキューレの騎行」の大音量とともに進軍する「空の第一騎兵隊」・UH-1ヘリ部隊であろう。

 騎兵隊隊長のダン・キルゴア中佐(ロバート・デュバル:この役柄でゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞)は西海岸出身のサーファーあがり(彼のサーフボードには騎兵隊のロゴが入っている)。不思議なオーラを放ち、迫撃砲の嵐のなかでも、かすり傷ひとつ負わない。チャーリー・ポイント(ベトコンの拠点)のど真ん中に、絶好のサーフ・ポイントを見つけるや、プロ・サーファー出身の部下たちに、波に乗ることを命令する。「危険すぎます」と止めにはいる准将に「東部出身のお前にサーフィンのなにがわかる。」

 「いったいどこが安全なんだ?俺が安全だといったら、ここが安全なんだ」

 似たような台詞を会員諸氏も聞いたことがおありだろう。小泉首相が、サマワ自衛隊駐屯地の安全性を国会で追及されたときの回答だ。

 「安全っていわれてもねえ・・。自衛隊がいくところが安全なんじゃないですか?」

 無意識のうちの弁明なのだろうが、間違いなく彼は、ロバート・デュバル演じるキルゴア中佐の佇まいのファンであろう。

 しかし、この映画が「黙示録」たるゆえんは、こういった派手な戦闘シーンにあるのではない。他にもいくつかの隠された名場面がある。しかも、いずれのシーンも、気味が悪いほど、21世紀の不安定な世界情勢を予見しているのだ。
★ SCENE-2 フランスの亡霊

 ジャングルの闇の奥、河の上流(部下には知らされていないが、実はカンボジア領地)にある「カーツ大佐の理想郷」をたどる主人公ウィラード大尉(空挺部隊所属だが実はCIA情報員:マーティン・シーン)一行は、国境付近でもうひとつの奇妙な理想郷にたどりつく。

 そこは70年前から傭兵たちに守護されてきたインドシナ宗主国フランス人のプランテーション(ゴム農園)だった。ジャングルの中に作られた瀟洒な洋館で、フランス人農園主コベールはこう毒づく。

 「あれは1945年だった。対日戦が終了、するとルーズベルトはインドシナからフランスを追い出そうと、この地にベトコン組織を植えつけた。そうなのだ、友よ。ベトコンの生みの親は実はアメリカなのだ。しかしあいつらはしたたかだ。アジアという土地は、我々白人が嫌いなのだ」

 言い放つや、農園主は食卓にあった生卵を片手で割ってみせる。

 「真実を直視しろ。こぼれるのはホワイト(白身)で、イエロー(黄身)はあとに残る」

 このくだりなど、まさしくこの作品が「黙示録=預言書」と呼ぶにふさわしいシーンであろう。そして現実に、ソビエトのアフガン侵攻に対抗して、アメリカが植えつけたイスラム教徒の部隊は、いまやソビエトに代わってアメリカに狂気の聖戦(ジハード)を挑んでいるのである。言い換えれば、アル・カイダとは21世紀に蘇ったチャーリー(アジア)の亡霊なのだ。アメリカは「現代の黙示録」ですでに語られた同じ過ちを繰り返しているのである。
★ SCENE-3 カーツ大佐が問いかけるもの

 カーツ大佐がカンボジアの密林の奥に築き上げたのは、彼を神とあがめる「死の楽園」だった。捕らわれ、獄につながれる主人公の前に、原住民のこどもたちに囲まれながらスキンヘッドのカーツ大佐が現れ、無造作にスクラップされた雑誌の切り抜きを黙々と読み始める。

 「タイム誌、1967年9月22日、タイトル「戦争の見通し」:米国民はベトナム戦争の行方に悲観的である。しかし大規模調査によれば、2年半前の兵力増強以来、現地での米軍の優位は明らかである。ホワイトハウスの見解は以下の通り、「敵はいずれ戦闘不能の状況に陥るだろう」。ジョンソン大統領は米国民が、この戦争に対する楽観的見通しを拒否することを懸念していた。しかし大統領はこの結論に気をよくし、報告書作成者たちに、その内容を折りに触れ話題にせよと指示した。……嘘っぱちだ……」

 ホワイト・ハウスの欺瞞を説きながら、静かに主人公に視線を移すカーツ大佐。彼を見つめ返す主人公。記事の朗読はさらに続く。

 「タイム誌、日付不明。ロバート・トンプソン郷・ランド(シンクタンク)所長がニクソン大統領の依頼でベトナムの現状を調査分析。先週の報告によると『「状況に好転の兆し、先に光が見えてきた』・・・・。」

 スクラップから眼を離すと、カーツ大佐は静かに主人公に問質す・・・

 「君に光が見えるか・・・?」

 筆者が一番好きなシーンだ。この先見性を、会員諸氏はどう思われるだろうか?

 このシーンにおけるカーツ大佐の台詞は、まさにイラク情勢をめぐるブッシュ大統領やラムズフェルド国防長官の答弁そのままではないか?この映画が「現代の黙示録」たる所以はこの先見にあるのだ。

(注2)
 昨年、公開されたピーター・ジャクソン監督のリメイク版「キング・コング」(ナオミ・ワッツ、ジャック・ブラック主演)の劇中、東南アジアの孤島「骸骨島」に向かうベンチャー号の若手乗組員の一人・皿洗いのジミー(ジェイミー・ベル)が「俺たち蒸気船乗りの物語だ」と愛読しているのが「闇の奥」である。物語は1933年、大恐慌時代のアメリカだが、古くから船乗り達にとって、アジアへの冒険旅行は「闇の奥」への旅路であったということだ。

(注3)
 在日本大韓民国民団(民団)と在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)の和解に対し、民団新潟県地方本部(李鐘海団長)は「北朝鮮による拉致問題が解決しない限り、和解は受け入れられない」などとして、中央本部の決定に従わない方針を決め、5月20日に県内の各支部に伝えた。

 県本部関係者によると、19日に県本部幹部らが会談し、「中央で和解を進めることには反対しない」ことを確認。ただ、横田めぐみさん=拉致当時(13)=らの拉致事件が発生した県内では、北朝鮮に対する反発が強く、県レベルでの和解は難しいと判断した。県内各支部に方針を伝え、今後、支部を通じて各団員に伝えるという。

 民団と朝鮮総連の和解をめぐっては、民団長野県地方本部も中央本部の決定に従わず、独自に脱北者支援や拉致問題に取り組む方針を決めている。新潟と長野の2県のこの判断の裏には、これら2県の朝鮮総連が組織として拉致事件や覚醒剤密輸事件に関与していた可能性を挙げる関係者も多い。2006年3月23日、北朝鮮による大阪市の中華料理店員原敕晁(ただあき)さん=失跡当時(43)=の拉致事件に絡み、警視庁公安部は、国外移送目的略取や監禁容疑で、原さんが勤務していた大阪市内の中華料理店や同店経営者(74)の自宅、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)傘下の在日本朝鮮大阪府商工会など6カ所を家宅捜索した。国内で発生した一連の拉致事件に係る初の強制捜査に朝鮮総連と本国は震撼したと言われる。実は新潟、長野各県においても大阪同様、「すでに公安当局の網は絞られている」と見る民団関係者は多いという。

 さらに5月29日、民団千葉県地方本部(金豊成団長)は「和解は到底容認できず、白紙撤回か中央本部執行部の総退陣を求める」とする声明文を発表し、民団中央本部の決定に従わない方針を明らかにした。千葉県は北朝鮮の日本人拉致事件の太平洋側の拠点とされ、千葉・旭町から東京、山梨・甲府、長野・大町を経て富山や新潟に抜ける『大町ルート』という在日朝鮮人の物流ルートの拉致事件への関与が指摘されている。今回、民団と総連の和解に対して、異議を唱えた3県が、奇しくも「大町ルート」上に位置するのは決して偶然ではない。

(注4)
 20世紀に米国が経験してきた太平洋戦争、朝鮮戦争、ベトナム戦争と続いたアジアにおける戦争終了後、ハリウッドで初めて、厭戦(war weariness)をメイン・テーマにしたのが、「地獄の黙示録」(1979年)である。同時期に封切られたマイケル・チミノ監督「ディア・ハンター」(主演ロバート・デ・ニーロ、クリストファー・ウォーケン1978年)とともに、アメリカが初めて自国の戦争をレビューしたものだ。いずれの作品も、映像もメッセージ性も一級のフィルムであると筆者は思う。対照的にあからさまなブッシュ批判、イラク戦争批判映画として最近、日本でも評判を呼んだマイケル・ムーアの「華氏911」は正真正銘の「ジャンク(くず映画)」であろう。一番いただけないのはタイトルだ。レイ・ブラットベリ原作の美しい風景を名匠フランソワ・トリュフォー監督が、落ち着いた色彩に圧縮・抑制した画像が逆に、観るものに強いインパクトを与える仏英合作映画「華氏451度」(1967年)のフィーチャーのつもりなのかもしれないが、だとしたら原作者に失礼にあたるというものだ。もともと華氏451度とは、紙(書籍)が燃えあがる温度のことで、大衆の支配のために都合の悪い書籍(情報)はすべて焚書される近未来を描いたこの映画のコンセプトは、のちの「薔薇の名前」(ジャン・ジャック・アノー監督、ショーン・コネリー主演、1986年、仏・伊・西独合作)や「リベリオン」(ヤン・デ・ボン製作2002年・米)にも受け継がれ、現代の「中国のネット検閲」にも通底する「人民支配の悪夢」である。
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