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工藤高の外来点数マニュアル
工藤高の外来点数マニュアル
外来点数マニュアル 表紙 このコーナーでは「知る権利に答える 外来点数マニュアル」(著者:工藤高 日本医療総合研究所 主席研究員、発行:日本医療総合研究所、製作:東京法規出版、定価:3,000円、税込み)をベースに、著者、工藤高氏による点数の疑義解釈等に関する最新情報のほか、先見創意の会会員はじめ、読者の皆様方とのQ&Aを随時掲載します。
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 第1回
 「2006年診療報酬改定をどう見るのか
改定の“3種の神器”が完全喪失」
■診療報酬の3種の神器

 かつての日本経済高度成長をささえた経営システムの3種の神器があった。「年功序列賃金」「終身雇用制度」「企業別労働組合」だ。06年改定の内容は、それに類似した診療報酬上の3種の神器が完全喪失したと考えてよい。

 まず「年功序列賃金」。2年に1度の改定の度に診療報酬本体は必ずアップするという年功序列的な定期昇給、ベースアップは完全崩壊した。前々回の02年改定が本体−1.3%、前回が±0%、そして今回が−1.36%と6年間で合計−2.66%も下がり続けている。日本経済は長かったデフレ経済を脱して景気回復を果たしたといわれるが、改定率だけは先の見えないデフレ状態が続いている。

 次に「終身雇用制度」。病院という看板を掲げていれば、よほどの過剰投資や放漫経営などをしなければ倒産はなかった“病院終身雇用伝説”が崩壊。06年2月10日に政府が閣議決定した医療制度改革法案は、現在38万床ある療養病床うち、介護療養病床13万床を0床に、医療療養病床25万床を15万床にするという病床大リストラ案を打ち出した。06年改定は、そのミッションを遂行する第一段階として、医療療養型の医療区分1、ADL区分1、2に該当する患者は764点と介護療養型(多床室)要介護1の782単位よりも低く設定して、介護療養へ誘導している。そして、最終的には介護療養を老健等の介護施設へ転換というシナリオである。

 在宅は療養病床削減による退院患者の受け入れ先として、24時間体制の在宅療養支援診療所という目標管理的な届出制度をつくった。これは、どこの診療所でも算定できるものではなく、24時間にわたり実質的に対応した労働コストに応じて点数が配分される成果主義的なものだ。他にもリハビリの再編や回復期リハビリ病棟における算定日数上限設定、1.4対1看護新設なども成果主義的な性格が強い。同じ出来高点数や届出医療であっても、医療機関における人員配置というストラクチャ(構造)や医療提供内容、在院日数というプロセスの違いで点数が増減するからだ。

 急性期病院では、晴天の霹靂でもある急性期入院加算等の紹介率関連の廃止。その代替として地域医療支援病院入院診療加算や救急救命入院料、特定集中治療室管理料は点数を引き上げた。ただし、これらの届出がない病院では、急性期入院加算等の廃止による減収分を補填することはできない。

 そして、3つ目の「企業別労働組合」に該当するのが日本医師会だ。06年改定のプロセスでは日本医師会の活動は従来と比較して活発ではなかった。改定率決定にあたって、従来は中医協の意向、なかでも日本医師会の意見が強く反映されていたが、予算編成過程を通じて内閣が決定するとされ、そのとおりのマイナス改定がすんなりと実行されてしまった。

■改定の10ポイント

 06年改定のポイントを一般病院と診療所の観点から列挙すると次のようになる。
(1) 過去最大の3.16%マイナス改定
(2) 史上初の診療所初診料引き下げと病院および診療所再診料のマイナス
(3) 突然の紹介率廃止という方針転換
(4) 4年の迷走を続けた手術施設基準の廃止
(5) 医療療養型へ医療区分等に応じた包括評価
(6) 晴天のヘキレキの介護療養廃止問題とそれにリンクした露骨なまでの在宅医療、介護療養病床への誘導
(7) DPCの拡大
(8) リハビリの大幅見直し
(9) 入院時食事療養費関連の見直し
(10) 小児科、産科の評価

 06年改定が医療機関に与える影響を考えると、診療所では初診料、再診料という収入の柱である技術料と検体検査、処方せん料の引き下げが確実に利益を圧縮する。在宅療養支援診療所という評価は、在宅未実施や眼科、耳鼻科といった専門科診療所では関係ない

 急性期病院ではやはり紹介率に応じた入院料加算の廃止とDPCの拡大だ。慢性期病院では医療区分1の入院患者が多いほどに大減収になる。人員を増加して医療区分が高い患者を中心に病棟を運営して医療療養15万床に残すか。あるいは介護療養へ移り、最終的には介護施設へ転換するかを考える必要がある。従来のように厚労省のプランどおりにはいかないと読んで、何も動かないのも選択のひとつだがリスクも高い。確実に言えることは「何となく」な急性期、慢性期、在宅医療ではいけないということだ。

 各医療団体におかれては、緊急にレセプト調査等を行い、医業経営への影響が大きいということであれば、再改定を要求するなどの強い姿勢での対応が望まれる。
掲載日:2006.04.11
医療政策ウオッチ
 1958年生。81年日本大学経済学部経済学科卒業、(医)河北総合病院医事係長、亀田総合病院の分院医事課長、情報企画室室長など計18年の病院勤務を経て、05年より鞄本医療総合研究所主席研究員(専門は診療報酬制度)。他にメディカル・マネジメント・オフィス代表、関東学院大学大学院経済研究科、大東文化大学環境創造学部、早稲田速記医療福祉専門学校で非常勤講師を務める。主な著書は、「楽しく分かる医療経営(雑)学」(医療タイムス社)、「2006年診療報酬改定のポイント解説とシミュレーション」(日本医療企画)など多数。
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