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(掲載日 2009.03.20)
ずさんな労務管理の問題を医師の倫理問題にすり替えてはならない
投稿者 北海道在住 江原朗
 3月11日の八重山毎日新聞は、「医師5人が時間外勤務拒否 県立八重山病院、2月分 以降手当支給停止でなお拡大すれば 医療サービスに影響」として、時間外手当の支給 が停止されて以来、当直を含む時間外勤務を医師が拒否していることを報じている。実 際に紙面を取り寄せてみると、1面トップで取り上げられている。

 この記事を見て筆者は疑問に思った。医師の応召義務と労務管理の問題を混同してい るからである。医療法16条では、「医業を行う病院の管理者は、病院に医師を宿直させ なければならない。」とある。したがって、病院の管理者が医師のうち誰かを宿直させ れば、法的には何ら問題はない。当直を拒否することは、何ら法的に問題はないと思わ れる。

 また、医師法第十九条第一項の診療に応ずる義務について(昭和四九年四月一六 日,医発第四一二号,各都道府県知事あて厚生省医務局長通知)によれば、当直を拒否し た医師が別の当直医の診療を受けることを指示しても、即座に医師法の応召義務に違反 しているとも言えないのではないか。

 医師法第十九条第一項の診療に応ずる義務について(昭和四九年四月一六日,医発第四一 二号,各都道府県知事あて厚生省医務局長通知)

 「休日夜間診療所、休日夜間当番医制などの方法により地域における急患診療が確保さ れ、かつ、地域住民に十分周知徹底されているような休日夜間診療体制が敷かれている 場合において、医師が来院した患者に対し休日夜間診療所、休日夜間当番院などで診療 を受けるよう指示することは、医師法第十九条第一項の規定に反しないものと解される 。

 ただし、症状が重篤である等直ちに必要な応急の措置を施さねば患者の生命、身体に重 大な影響が及ぶおそれがある場合においては、医師は診療に応ずる義務がある。」

 医師には、応召義務とプロとしての責任があることは言うまでもない。しかし、賃金 の不払いを甘んじて受けよとは誰も言っていないし、そうすべきでもない。ずさんな労 務管理の問題を医師の倫理の問題にすり替えることに悪意を感じざるを得ない。賃金の 不払いは労働基準法違反であり、管理者が懲役刑も含む刑事罰を受ける可能性もゼロで はないのである。

 「労働基準法 第37条 使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長 し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通 常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令 で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」

 そして、この条項に違反すれば、6か月以下の懲役また又は罰金30万円以下の罰金刑に 処せられる(同第119条)。

 「医師は管理職であるから時間外手当はない」との迷信があるが、大津労働基準監督 署の立ち入りを受けた滋賀県立成人病センターは、是正計画書で「病院長を除く部長職 以上の医師について、時間外・休日及び深夜の割増賃金を平成18年4月1日に遡及して支 払う」と回答している。

 病院長以外の医師は、「名ばかり管理職」であることを滋賀県が認めたということであ る。住民の健康を守るためにとはいえ、賃金を支払われない診療を行うべきではない。 医療法16条にうたわれた宿直をする医師がほかにいないのであれば、労働基準法第41条 における管理監督者である病院長が365日行えばよいだけである。

 労務管理がずさんで賃金の不払いがあることを、医師の倫理の問題にすり替えてはな らない。医師は医療を行うことが仕事であり、医療体制や労務管理の整備は、病院管理 者や行政・政治の仕事である。技術を安売りしてはいけないのである。
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