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(掲載日 2008.03.05)
医療機関が直面する "メタボ" リスク
投稿者 日本医療総合研究所 取締役社長 中村十念
 知らぬ間に医療機関は“メタボ”リスクに汚染されつつあるようだ。1年にわたって展開された厚生労働省主催、保険者協議会共催の“メタボ”祭りも宵山を迎えつつある。

 その陰で、フィナーレのメタボ踊りの濁流に巻き込まれた医療機関は三重苦の状態だ。

 一つは、刑法上の守秘義務の問題である。

 メタボ健診以前の話として、事業主には、従業員に対して「労働安全衛生法」のもとで、事業主健診が義務づけられている。「高齢者の医療の確保に関する法律」(以下「確保法」)によって、メタボ健診が保険者に義務づけられたからと言って、事業主はこの健診をやめる訳にはいかない。そうなると受診者の負担が増える。

 そこで出て来たのが事業主健診の中身を若干修正して、メタボ健診をやったことにしようというアイディアだ。事業主は保険者に健診データを提供し、保険者は特定保健指導のみを行うというシステムだ。

 しかし保険者と言えども事業主や事業主健診の受診者から見ると他者であり、個人情報保護法上の問題が生じる。そこで「確保法」第27条により、事業主に情報提供義務を負わせ、個人情報保護法の免責事項とする処置がとられた。

 健診情報のやり取りが、事業主と保険者間で行われるのであれば、医療機関は関係ない。しかし、多くの事業主が保険者への情報提供を医療機関に代行するように求めてきているという。手間とコストを避けたいということであろう。

 しかし、ここで医療機関にとっての問題が起こる。ご承知の通り医師には、事業主や保険者と違って、刑法134条により守秘義務が課されている。受診は本人の了解もなく、医療情報を他者に開示することなど出来はしない。

 しかし、そのことを説明して、受診者の合意がなければ他者への情報提供は出来ませんと断ると、健診の契約終了を宣言されるだけだという。メタボ祭りを機に医療情報が軽く扱われ始めたということだ。守秘義務違反のリスクと営業の確保の板挟みに泣かされている医療機関は多い。

 一方事業主の側は本当に安全なのであろうか。私も小事業主であり、政管健保に加入しているが、従業員に健診情報を社会保険事務所に提供することの適否を問うと、おそらく100%否である。

 そのことを無視して、他者に情報提供することに起因する問題の芽を残すことの方が怖い。個人情報保護法上は免責にされたとしても、民法上の損害賠償責任まではなくならない。事業主は思案のしどころだと思うが、どうだろうか。

 二つ目は、情報漏洩の問題である。

 金や太鼓にひかれて、メタボ祭りには新しい参加者がどんどん増えた。特定保健指導をする会社、保険者と医療機関の仲介をする集合契約業者、医療情報を電子化する代行入力業者などなどである。支払基金や国保連合会なども健診分野の審査・支払いという分野開拓に参入を狙っているという。

 メタボ健診ではこれらの関係者間を電子化された情報が飛び交うことになる。その情報はインターネット経由で交換されるという。 そうなると情報の漏洩が起こらないと予測する方がむつかしい。

 漏洩事故は必ず起こるし、それも電子化された情報であるから、漏洩先は止まるところを知らない。そのことが予見できるのであるから、情報の発信元の医療機関としてはあらかじめ危機回避策をとるべきである。

 しかし、その危機回避策は紙ベースでの情報提供に止めるということになろうが、そうすると情報の電子化という制度設計上との矛盾が生じる。メタボ健診はそもそも保険者の責務なのだから、このようなリスクは保険者が負うべきである。

 やむを得ず医療機関が電子化業務を請け負うとしても、医療機関が情報提供したその先での情報漏洩に対しては、法律上無責にするなどの法的処置がとられない限り、医療機関は無限のリスクを覚悟しなければならなくなる。

 三つ目は、手間とお金の問題である。

 去る2月28日に開催された保険者協議会中央連合会で、4月からの特定健診の実施が目前に迫っているにもかかわらず、ワーキンググループが急遽設置されることになったという。

 ワーキンググループの設置目的は、山積する課題の解決方法の検討と契約書(案)の作成であると業界紙は報じている。何のことはない。もう宵山なのに踊りの舞台裏では、大団円のやり方について、未だに論議中であるということだ。

 それなのに、現場では、祭りの氏子が、最早費用の回収やつけ替えにかかっている。被害に合っているのはもちろん医療機関だ。

 祭り参加者の手前勝手な主張が、健診の料金や契約方法が決らないうちから、医療機関に押し寄せている。曰く、独自のフォーマットで健診情報を提供しろ、うちの団体に加入しないとメタボ健診は出来ない、代行入力してやるのでその費用を寄こせ、などなど医療機関が費用負担をするのが当然のような雰囲気だ。

 保険者によっては特定保健指導をしないところは、健診契約も解除する、と通知しているところまである。また問診表の電子化を要求されて、高額なハードウェアの購入を迫られているところもあるという。

 「バスに乗り遅れますよ」というのが殺し文句になっているかららしい。 そうでなくても、今は診療報酬改定によるレセコンのシステム改訂で忙しい。

 医療機関の方々に申し上げたいのは、医療機関が動かなければメタボ健診そのものが画餅なのだから、保険者の優越的地位の乱用に負けず、脇甘に対応することなく、じっくり「次のバスを待ちましょう」ということだ。 正しい制度設計のために、遠からず日本医師会が立ち上がってくれることを期待して。
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