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(掲載日 2006.06.16)
消える療養病床
投稿者  医療法人祐基会理事長 田代 祐基
 今月7日にくだされたドミニカ共和国への移住者訴訟に対する東京地裁の判決で、国が実質的に敗訴した。この移住の問題点は、官僚が「カリブの楽園」という甘い言葉で移住を募り、それに乗せられて財産をはたいてまで移住した人がおり、移住した先は楽園どころか、地獄であったという詐欺まがいの行為を働いたという点にある。その原因は、官僚の移住政策による自らの機構の拡大であったと、若槻康雄さん(移住の実施団体の元職員)が自著「外務省が消した日本人」で言っている。

 私には、ドミニカ移住の話と、いま医療の世界で行なわれようとしている療養病床の削減策がダブって見える。療養病床削減策とは、このような話である。 厚生労働省は、高齢者社会の到来とともに、療養生活型の病室へのニーズが高まるからと甘い言葉で一般病床から療養病床への転換を誘導した。当初は診療報酬も高めにつけられた。

 医師会でも、会員の共同利用施設として、療養型病床を主体とする医師会立病院を推奨して来た経緯がある。それに有床診療所がもつ一般病床についても、療養型病床に転換する会員も多かった。また全日病など病院協会に属する会員の中にも、病院の改造の借金までして一般病床から療養病床へ転換した人も多かった(約35万床に達した)。ところが、今度は急に療養病床を15万床に削減するというのである。

 しかも残った療養病床の診療報酬もあの手この手で締め上げて、自主的に退場を迫る仕掛けであるという。その仕掛けが作動するとなると、鹿児島県医師会のアンケート調査のように、一気に20%も診療報酬が下がることになる。これでは借金の返済もおぼつかない。それがいやなら、補助金をつけるから老人保健施設などの介護施設に移行せよというシナリオである。つまり、療養病床は消えてなくなれという訳である。もちろん、国民のことを想っての政策ではない。多くの国民は医療とのアクセスが悪い自宅か介護施設に移住し、不安な老後を過ごさざるを得なくなる。

 この背景には、病床が減れば医療費が減る、医療費が減れば国の出費が減る、という考え方がある。それは復員者が多いから国の出費が増えて困る、その分海外に移住させろ、それで国の出費が減るだろうという「棄民」の理屈と同じである。

 しかし、なぜ官僚は国民を犠牲にしてまでそのようなことをするのであろうか。移民政策が外務官僚の利権と結びついたように、医師の手の届きにくい介護ワールドを作りたいという厚労省の官僚の相も変らぬ念願とマッチするからだと思うのは考えすぎであろうか。
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