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(掲載日 2006.05.26)
「納付率偽装」と「民間手法」
投稿者  日本医療総合研究所 取締役社長 中村十念
 数値目標が掲げられる。それの達成をカネや太鼓で煽る。結果はランキング付けされ、煽りに拍車がかかる。民間企業では、ごくありふれた光景である。時には結果が昇給や昇進と結びついたりするので、勇み足もある。最近では某損保会社の事例があった。

 さて、大阪で起きた国民年金保険料の「勝手免除問題」のことである。社会保険事務所の職員が市民本人の意思とは関係なく、納付率偽装のために勝手に年金保険料を免除していたという。税務署員が勝手に税金納付を免除するのと同類の話であり、にわかには信じがたいが、本当らしい。

 何故、そんなバカげたことが起こったかといえば、村瀬社会保険庁長官の納付率向上の強い意思にあるという。そのこと自体が間違っているとは思わないが、村瀬長官は民間の出身であるだけに、納付率向上をカネや太鼓やランキングによる社内キャンペーン方式で達成しようとしたのではなかろうか。「民間手法」に慣れない公務員が次々に勇み足をしたという構図であろう。

 国民年金や国保の未収金は膨大な額に達しており、大きな問題である。その根っ子の原因は、国民の一部に生活保護でも構わないというモラルハザードが生じ、それがジワジワと拡がりつつあるからではないだろうか。

 その理由は、生活保護に比べて国民年金や国保の納付があまりにも低いからである。月々数万円の年金では生活保護のほうがましだし、3割負担もさせられるのでは公費医療のほうが良いに決まっている。要は保険料負担のしがいがないということである。

 村瀬社会保険庁長官は、カネや太鼓に走る前に未収が起こる本質の問題を考えるべきであった。川崎厚労大臣は記者会見で「公務員がルール違反をしたら、それが上の命令だなんて、そんなことありえない」と述べ、誰も信じていない公務員無謬説に固執しているが、まったくのナンセンスである。そういっている間に国民皆年金や皆保険は崩壊しつつあるのだ。責任を個人に押し付けず、国民がモラルハザードをおこさない社会保障制度を作ることに尽力するのが厚労大臣の仕事であるはずだ。

 ランキング主義やキャンペーン方式は、医療政策の面でも次々に取り入れられようとしている。「自治体別糖尿病患者数」「都道府県別保険料」等々である。データに基づき、問題が認識され解決が図られることは当然であるとしても、そのデータが煽りや抑圧の道具に使われては、せっかくの良い制度まで潰してしまうことになりかねない。
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