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テーマ  御用心――認定医療法人制度
投稿者  医療法人社団 鶴亀会 理事長 西元慶治
 日本医療総合研究所 取締役社長 中村十念
 厚生労働省によって「認定医療法人制度」なるもののプロパガンダが頻りに行われている。説明資料によると、骨子は次のようなことである。

認定医療法人制度 創設のイメージ −持分のない法人への移行促進−

1.公益性の高い医療を積極的に担う「認定医療法人」

 (1)医療計画への位置づけ
 (2)公的医療機関の受け皿
 (3)残余財産は他の「認定医療法人」へ帰属

2.切磋琢磨しながら質の高い医療を提供する「認定医療法人」

 (1)他の医療法人への支援
 (2)多様な事業展開
 (3)外部監査/自己資本比率の規制緩和

3.医業経営の安定化に向けて住民が支える「認定医療法人」

 (1)住民への情報提供
 (2)公募債の発行
 (3)評議員会の設置

 一見もっともらしい美辞麗句のオンパレードであるが、中身は相当空虚である。「認定」という言葉からして「おかみ」意識丸出しである。「認定」以外のものは「非認定」ということになるのだろう。

 分割して統治せよというのは植民地支配のノウハウである。まず「認定」A級「非認定」B級というレッテル張りをして区分けする。次に「非認定」を、総量規制という潰しの戦略を使って干乾しにする。一方で「認定」には甘い誘い水を注ぐ。そして「非認定」を「認定」に支配させる。最後に「認定」は官僚が支配する。「認定」という言葉の裏にはそのような構図が見え見えである。

* * *

 そもそも医療法人は中間法人である。中間法人と言うのは公益法人と株式会社等の利益法人の中間という意味である。配当を禁じることにより公益性をもたせ、出資持ち分を持たせることにより財産権を担保する仕組みである。つまり公益と私益のバランスを図る法人形態である。

 ところが総合規制改革会議(今の規制改革・民間開放推進会議)を舞台に、医療法人も配当しているから株式会社と同じであるという奇妙な論理を持ち出す人達がでてきた。その理由は、出資持ち分のある医療法人は、その解散時に、残余財産があれば、それを出資持ち分に応じて分配するから、それが配当であるという。

 しかし、これはいいがかりである。株式会社は毎期毎期の株式配当を目的としているが、医療法人は配当が目的ではない。またストックオプションのような金融的なトリックも、株式会社では使えるが、医療法人では使えない。株式と出資持ち分では目的も性格も明確に違う。

 確かに、医療法人の解散時の残余財産は出資者に帰属するが、このことが目的として行われる訳ではない。やむを得ない場合の財産権保全の緊急処置として行われるのである。このことは税法でさえ、「みなし配当」と呼び「配当」とは区別している。あらまほしき毎期の配当と、あってはならぬ万が一の場合の避難的処理をさも同じように論ずるのは為にする議論である。

* * *

 このことを逆手にとった人がいた。誰あろう、規制改革会議との議論の守勢に立たされた厚生労働省本人である。転んでもただでは起きぬたくましさである。医療法人を公益団体化して天下り先にしようとの画策である。しかし、医療法人が素敵な天下り先となるためには、いくつかのお化粧をしなければならない。まず、「オーナー理事長」から「やとわれ理事長」になってもらわなければならない。天下った官僚が家来にされるのでは困るからである。「やとわれ理事長」化の方策が「出資持ち分の放棄」である。持ち分さえなければ「やとわれマダム」と変わらない。

 「やとわれ理事長」でも社員や理事に側近の多い「実力理事長」では困る。理事長に居すわられたり、系累に理事長職を継承されては、官僚の思うがままの人事が出来ないからである。そのための方策が、「社員・理事の同一親族割合の規制」である。あいた席には官僚が坐る。理事長を裸の王様にしようという訳である。

 最後が「理事長要件の緩和」である。医師以外の人でも理事長に就任できるようにしておかないと、官僚の天下りが出来ない。

 認定医療法人制度では、「出資持ち分の放棄」「社員・理事の同一親族割合の規制」「理事長要件の緩和」が同時に行われようとしている。一説によると1,000を超える医療法人を「認定医療法人」に誘導しようとしているという。これらのことを見て、官僚の壮大な天下り先作りを想像しない人はいないと思う。

* * *

 認定医療法人の誘い水は、主には「公的医療機関の受け皿」「公募債の発行」「税制上の優過措置」の3つである。誘い水といっても実態は苦くて飲めたものではないことを次に説明する。

 まず「公的医療機関の受け皿」になれるということであるが、誰もが百も承知のように「公的医療機関」は今でも天下り官僚の巣窟である。国公立はもちろんであるが、社会保険病院、厚生年金病院等の社会保険財源が入っている病院も全てそうである。

 ところが昨今、これらのところへの補助金の投入が窮屈になってきている。既に整理が始まっている病院もある。病院がなくなるということは天下り先もなくなるということである。天下り先を確保するためには病院を潰してはいけない。その受け皿作りは、官僚の最大の使命であり、その道具が「認定医療法人」という訳だ。受け皿になったら最後、様々な口実と圧力で官僚群が押し寄せ、あっという間に乗っ取られる。「くわばら、くわばら」である。

 公募債の発行は絵に画いた餅である。医療法人で100億円以上の売り上げがあるところはかなり大きな病院を持っているところである。ところが株式会社で、売上100億円規模で公募債を発行しているところなど見当たらない。

 公募債の発行にはかなりのコストを有することにも留意する必要がある。格付け会社から格付をとらなければならないが、これがバカ高い。病院は一般中小企業より更に高い。証券会社に支払う手数料も必要だ。監査法人の監査が必要となると、コストは医療機関にとって負担しきれるものではない。公募債による資金調達が安くつくというのは全くの幻想である。

* * *

 「税制上の優遇措置」も怪しいものである。売上20億円、利益率5%の病院で現行税率が30%であるとする。これが特定医療法人並みの22%に軽減されたところで軽減額は800万である。天下り一人の人件費にも満たない。そもそも、このような税不足のご時勢になぜ税金の軽減なのであろうか。理由は一つしかない。天下りプロジェクトに財務省も一枚噛んでいるからである。実は先述した国・公立病院や社会保険病院には、財務省からも多くの人が天下っている。天下り先の喪失で困っているのは厚生労働省だけではなく、財務省にとっても重大な問題である。税率の軽減と天下りはバーター取引きされている可能性が大きい。

 奇妙な義務も考えられている。その代表的なものが「役員報酬等支給基準の開示」と「社員による役員に対する代表訴訟制度の創設」である。

 経営者報酬の開示は世の中の流れであるという人もいるが果たしてそうであろうか。確かに米国の場合、総資産額が1千万ドル以上で、株主が500人以上いる企業は役員上位5人の報酬を個別に公開する義務がある。英国やフランスも同様だ。しかし、これは欧米の経営者の報酬がケタ違いに大きいからである。10億円を越す報酬を手にする経営者も少なくない。つまり、報酬の公開は「経営者が企業を食い物にしていないか」をチェックする意味で行われている。そのような事情であるから、欧米に比較して報酬がはるかに低い日本の企業経営者で報酬を公開している人は極めて少ない。公益法人ですら、公開が義務づけられていない。そのような環境での「認定医療法人」の役員報酬開示など「のぞき見主義」を助長する域を出ない話である。

 もっとわからないのが「社員による役員に対する代表訴訟制度」である。これは株式会社における「株主代表訴訟制度」が下敷きになっての発想だと思われる。しかし「認定医療法人制度」においてはそもそも持分がないのであるから社員には財産権がない。何を訴因にしようとしているのであろうか。理事長の素行問題等を訴えて(あるいは訴えると脅して)理事長追い出しの材料にしようとしていると思うのは勘ぐり過ぎであろうか。訴訟化社会を助長するような政策はお断わりである。

* * *

 このように「認定医療法人制度」は危ない制度である。そもそも公益法人でもない医療法人を公益法人化しようというのは不自然である。公益法人化する必要があるのであれば、公益法人制度を使えば良い。そうでないから裏に、何かあると感じるのが普通である。医療法人の中でも、出資持ち分のないところにインセンティブを付けるというのであれば、今でも持ち分もなく、解散時の残余財産も個人に帰属しない財団医療法人や、持ち分のない社団医療法人の税率軽減化を図るというのがまず順序というものであろう。

 医療法人改革の視点は、医療法人は中間法人であるという原点に帰ることが、まず第一である。その上で蓄積された内部留保が医療や福祉、社会貢献に適切に投資されるよう税制や事業範囲等を整備していく、この2点に尽きる。妙な方向に流れを作るべきではない。
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