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コラム
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(掲載日 2010.06.29)

 消費税の論議が高まっている。一時の消費税アレルギーから一転して、増税を訴えることが、責任ある政治家の見識のように語られている。その消費税は、公平で集めやすい税のように語られているが、本当だろうか。私には、単なる神話にすぎないような気がしてならない。

 日本の民間最終消費支出は、300兆円余り。これに5%の消費税がかかるとすると、15兆円が集まるはずだ。ところが、実際は10兆円弱しか集まっていない。5兆円以上はどこに行っちゃったの? 素朴に考えると、そう聞きたくなる。

 すぐに出てくるのは、1,000万円未満の売上高の店は、消費税を納めないでもよい優遇策のことだ。だが、考えてみて欲しい。売上高が1,000万円未満というが、そんな小売店の売上が、日本の最終消費の3分の1を占めているだろうか。シャッター商店街を例に出すまでもなく、日本の零細小売業は、絶滅の危機に瀕している。

 そんなことを考えていた時、とある居酒屋で知り合った不動産会社の社長がこんなことを言い出した。
「消費税率なんて上げる必要ない。払わないやつを横領で逮捕すればいいだけのことだ。消費税は、客から預かって国に納めるけど、1年に1回でもいいんだ。その間に運転資金で使っちゃうよ。実際に、納めるのは3.5%分ぐらいじゃないか。おれも正直には払っていない。」

 売上高をきちんと申告すればいいが、ごまかせば、所得税だけでなく、消費税も少なくなる。赤字の会社なら、仕入れ資金や従業員の給料の支払いのほうが先になる。客から預かった消費税を納めないのは、明らかに横領罪だが、税務署は所得税に対する取り立てと同じ態度で、横領罪の適用など聞いたことがない。当然、倒産した会社から取れないのは、ほかの税金と同じだ。

 「3.5%分」とはよく言ってくれたもので、私の疑問に対するズバリそのものの回答だ。この理屈だと、国全体で5兆円ぐらいの消費税がどこかに消えてしまってもおかしくはない。社長氏は、税率が10%になれば、実際には7%程度の税金しか納められないだろうという。売上高の10%もの預かり金があれば、資金繰りに苦しむ中小零細企業でなくとも、拝借したくなるのが人の気持ち。いざ、納税という時に、耳をそろえて出せるところは減るだろう。いまのままでは、小売店に補助金をばらまくために増税するようなものではないか。

 神話といえば、日本の直間比率が直接税に偏っているというのも、いまや神話の域に入ったのではないか。

  財務省の公表データ を見てほしい。直間比率はすでに米国より間接税が多く、フランス、ドイツと比べて遜色ない。考えてもみてほしい。この間に所得税、法人税は減税され、消費税は3%から5%に上がっている。集まる税収は、 このようになっている のだから、バランスが変わるのは当然だ。

 日本の消費税率は欧米に比べて低いから上げる余地があって、法人税率は高いから下げないと企業が逃げるという。税率でいえばその通りに思える。しかし、税率だけで税金を語るのは間違いだ。税金は、最終的にいくら集まるかが大切だ。

 日本は、中国に抜かれているかもしれないが、世界第2位の経済大国だ。税率が低くても消費税の絶対額は多くなる。一方、企業は自動車業界ひとつをとっても、メーカーが8社(トラック、二輪を除く)もひしめいて競争している。過当競争で、利益率は低い。利益率が低いのだから、利益にかかる法人税率が高くても、実際に払う税金額は低くなる。

 財界は、税率が高いなどと不平を言う前に、利益をあげて社会に貢献をしてから、税率の高さを問題にするべきだ。現在は、その資格がないと言えるだろう。

--- 杉林痒 (ジャーナリスト)

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