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コラム
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(掲載日 2008.03.25)

 ■赤字だと言っておいて黒字決算

 2008年3月12日、政管健保の収支見込が発表された。マスコミは「政管建保5年ぶりの赤字 07年度1577億円」「政府管掌健保 1700億円の赤字に 08年度見込み」などと報道。いよいよ保険財政も大変だと思わせた。

 しかしこれは政管健保の常套手段。2006年度を例にとろう。まず、2006年2月16日に421億円の赤字になる見込みと発表。1年後の2007年3月5日には878億円の黒字になる見込みに修正。そして問題の決算。決算はマスコミであまり取り上げられることがないのだが、決算では1,117億円の黒字であった。

 図1に、当初収支差をどう示したか、その後、どう見直したか、そして決算ではどうだったかを示した。


拡大図はこちら >>

 例年、収支を過小に見込んで、大変だと騒ぐ。そしてこっそり公表される決算の収支は、当初見込みを1,000億円以上も上回る。しかも決算が出ている2006年度までの直近3年間は連続黒字だ。

■狼少年に素直なマスコミ

 マスコミにも学習効果がない。毎年、毎年、収支を過小申告しているのだから、見込みが公表された時点で突っ込まないといけないし、黒字決算も大きく取り上げるべきだ。

 マスコミは狼少年の言い訳にも従順だ。いくつかの報道を検証してみよう。(名誉のために記事に少しだけ手を加えて特定できないようにした。)

 「2008年度は、後期高齢者医療制度の支援金の負担も増え、赤字が1700億円に膨らむ」
---2007年度の老人保健拠出金は1兆7,712億円、2008年度の後期高齢者支援金は1兆5,000億円とむしろ減少する。2007年度までは、拠出金は給付費の5割であったが、2008年度からは後期高齢者自身からも保険料を徴収するようになり、支援金は給付費の4割になるからだ。

 2007年度までの退職者給付拠出金、老人保健拠出金は、2008年度には退職者給付拠出金、前期高齢者納付金、後期高齢者支援金に組み替わる。合計額で比較しても、2007年度2兆8,740億円、2008年は2兆9,000億円とほぼ同じ。

 「高齢者増で医療費がかさんだことが要因で、保険給付費が増えた」
---保険給付費は若い世代の費用で、高齢者とは関係ない。後期高齢者増が影響するのは支援金(旧拠出金)だ。政管健保の中でも1人当たり給付費の高い、比較的高年齢層が増えているというのならまだわかるが、そこまでの分析はない。

 「2008年度に1700億円の赤字になるのは、メタボ健診で700億円の費用がかかるためと説明」
---社会保険庁がほんとうにそう説明したのであれば、それこそ不正説明だ。正しくは、2008年度はメタボ健診も含めて「中高年齢者の疾病予防検査等」に700億円かかるのだが、この費用、2006年度も500億円、2007年度も515億円。1,700億円の赤字をまねくほど、一気に増えるわけではない。

■やっぱり自分は苦労したくない官僚たち

 政管健保が財政危機を煽るのは、身銭を切らず、来年度も健保組合等からの支援を受けたいし、保険料も引き上げたいからだ。

 2008年度、政管健保は健保組合等から1,000億円の財政支援を受ける。ところが、2007年度末の事業運営安定資金(積立金)は3,406億円もあった。財政が苦しいといっているのに、2008年度末の資金残高も1,700億円の見込みだ(例年、収支は決算で大幅に改善するので、資金残高はもっと増えるはず)。自分(官僚)のお金は温存したいというわけだ。

 保険料率を引き上げたいというのも、ずうずうしい話だ。決算の出ている2006年度は診療報酬マイナス改定の影響もあるが、1人当たり保険給付費の前年度比は▲0.6%。被保険者が医療費を使いすぎているから、給付費が増えるという理屈はとおらない。

 一方で、社会保険庁の事務費(人件費、経費)予算は、2006年度202億円、2007年度198億円。天下りの持参金は減らせないというわけか。さらに2008年度には254億円。組織移行にともなうお化粧直しのために色をつけてもらっている。

 政管健保の運営は、今年10月から全国健康保険協会に移行。この協会、都道府県単位の財政運営で、保険率も都道府県ごとに決まる。

 いま、全国一本の政管健保の収支を見てきたが、こんなにもわかりにくい。都道府県単位に散らばれば、あちらでも、こちらでも官僚が巧みに言い訳し、地域住民に保険料引き上げやむなしの意識を埋めつけるのではないか。

 国(厚生労働省)は、監督官庁として、引き続き(というか改めて気合を入れて)、とりまとめと説明の責任を果たすべきだ。ただしそれも、厚生労働省、社会保険庁自身が襟を正すことが先決。

 すなわち徒に危機感をあおらず妥当な事業計画を立てること、身の回りの業務効率化こそを徹底することに、真摯に取り組んでほしい。そうでない限り、新たなお金を使って看板のすげかえに終わる組織の移行は認められない 。
 
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