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「ついに誰も増税を言わなくなった…」 土居 丈朗
(掲載日 2007.01.16)
■日本での医師不足の現状

 平成10年の時点では医師は過剰であるというスタンスであった厚生省も、近年では医師の仕事量の増加から医師は不足しているという認識に変化してきている。この医師不足に対して、短期的には育児をしている女性医師など経験があるが何らかの理由で現在臨床を行っていない医師を活用すること、そして長期的には医師が長期にわたって勤務を持続し得る就労環境を構築することが、問題の解決に必要といわれている。

 しかしながら現在特に不足しているのは実績も経験も豊富な、いわゆる中堅の医師であり、そもそもそのような希少な医師のリプレイスとなると、非常に多くの仕事をこなさなければならず、おのずとその勤務形態は悪いものとなる。そのため現在臨床から離れている中堅の医師をリクルートできたとしても、そのようなポジションには就かないかまたは就いたとしてもすぐにやめてしまうことになる。

 ましてや女性医師をとなれば結婚、出産、育児など女性のライフサイクル上での転機が元となって臨床を離れている場合も多く、臨床医療を助けてもらうためにはその医師の責務や勤務時間などの条件を明確にし、実際にそれが守られるような環境を作らないことには、臨床現場に勤務してもらうことは不可能である。

 いままでの医師の雇用体系では休みの日でも常にオンコールにあるような勤務体制であり、担当する患者を医師のチームで担当し、時間帯によってはチームの一員は完全にオフになるというものからは程遠いものである。

 今までの日本は、男性が社会に出る代わりに女性が家庭を守るという図式ができていたため、男性医師が多ければ、上記のような医師の雇用体系にもさほど問題が表れなかったのかもしれない。しかしこの雇用構造では、家庭の枠組みが変わり、さらに女性医師が増えている現在では、いったん医師不足が発生すると対策を講じるのは非常に困難である。

■米国での女性医師の活躍

 米国においては、女性の社会進出は日本よりもとても進んでいる。これは日本やヨーロッパといった家族主義の文化を色濃く持った国と違い、米国は個人主義が進んでいることから、社会に進出してこそ女性自身のアイデンティティーを確立することができるからであり、それをサポートする基盤がしっかりしているからであると解釈されることも多い。しかし、女性が社会に出る活動をサポートする基盤は日本に比べて比較的整備されているといえるが、それだけが家事や育児がキャリアの途中に入りながらも、医学部の教授や、教育病院の責任あるポジションにも女性が多いことを裏付ける理由にはならない。

 上記のようなことが可能になるのは仕事を機能別に分け、その機能に応じた職責を元に人を雇用するという就労環境が米国の医療機関に用意されているからこそである。たとえば産婦人科医、小児科医と何人ずつ雇用するといった大きなくくりではなく、より細かく業務や機能といった仕事の単位をまとめて就労ポジションとして、医師や場合によっては医師に代わるスタッフをその役割のみを行うために雇用し、その役割を満たすようなパートタイム・フルタイムの雇用を行う。そしてサービス残業にも似たオンコール体制なしで運営が可能になるような組織作りを行うことで、日本にありがちなパートとフルタイムにおける医師の労働条件の顕著な差が組織運営上問題となる、といったことを起こりにくくしている。

■医師の雇用は人数ではなく役割で

 繰り返しになるが、日本において各診療科での医師の人数・配置は外来患者数や入院患者数に対して計算されることが多く、それぞれの組織に配置された医師は、彼らのみでその組織における臨床医療をカバーするという前提に立っている。よって、パートの医師や当直の医師が入ったとしても、結局は海外に行くときでもなければ常にオンコール状態になってしまう。

 この問題を解決するためには、米国のようにそれぞれの組織は医師の頭数の確保だけではなく、病院や診療部門が必要とする業務を定義し、それを行うことに対して適した医師を雇用するということを行わなければならない。医師に限らず家庭を持っている人は、すでにその家族に対して24時間オンコールなのである。まして子供を持つ女性医師はなおさらであり、そのような女性医師の活用を考えるのであれば、今までの慣習を捨て新しい雇用スタイル、医療機関の運営スタイルに変えていかなければならない時期に来ているのではないだろうか。
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