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「無形の力」 山内 昌彦
(掲載日 2006.04.18)
■「無形の力」を養おう

 杜の都・仙台に、去年、誕生したプロ野球の新球団「東北楽天ゴールデンイーグルス」。2年目のチームスローガンを「無形の力を養おう!」と決めた。

 「無形の力」は、野村克也新監督が常々口にしてきたキーワードである。投げる・打つ・守る・走るという「有形の力」に対し、「無形の力」は、情報収集力・分析力・観察力・記憶力・判断力・決断力といった目に見えない力を指す。強い球団ならば、「有形の力」に頼るだけで勝てるが、楽天は、昨シーズン38勝97敗1分けという記録的な成績で最下位に終わったチームだ。スローガンには、戦力の乏しい弱小球団が勝つためには「無形の力」を存分に発揮しなければならない、というメッセージが込められている。

 今シーズンの楽天の成績は、4勝11敗(4月13日現在)。開幕以降、パ・リーグの最下位に居座り続け、すでに昨シーズンの二の舞になるのではないかという声も上がっている。野村イズムがまだまだ浸透していないのだろうが、プロ野球球団としての基本的な戦力が欠けているのも、成績不振の要因ではないか。野村監督自身もぼやいている。「『無形の力』も必要だが、プロの選手である以上、ある程度『有形の力』を持ち合わせていないと・・・」。

■「有形の力」乏しい東北医療

 「無形の力」は、どの組織の土台作りにも通じるものだ。十分な戦力の整っていない組織が、大きな組織と並び立とうとした場合、「無形の力」が鍵を握る。しかし、それだけでは十分とはいえない。「有形の力」と補完し合ってこそ、戦力となるのである。

 もちろん医療の現場にも「有形の力」と「無形の力」が存在する。ところが、東北地方の医療の現場を見渡すと、野村・楽天と同じように、「無形の力」を発揮する以前に、「有形の力」があまりにも不足している現実に驚かされる。青森県のある公立病院は、この春、常勤医が4人に減り、救急患者の受け入れを辞めざるをえない事態に追い込まれた。結局、見かねた大学病院から若手の医師1人を日替わりで出してもらえることになり、むこう半年間のメドは立った。しかし、こんな自転車操業を続けていれば、いずれ大きな事故が起こる。

■集約化はどこまで可能か

  事故といえば、福島県立大野病院の産婦人科医が逮捕・起訴された事件があるが、これは東北地方の医療の脆弱さを物語る象徴的なケースである。東北地方の病院では、1人の医師が外来や手術・検査を抱えながら、年間200から500の出産を扱う施設も少なくない。

 当面の対策として、病院の集約化があげられることが多いが、広域にわたる東北地方では、集約化が可能な地域と不可能な地域にはっきり分かれる。このため、東北大学の岡村州博教授を中心に、セミオープンシステムの研究が進められている。それによると、仙台市のような都市を核とした都市型のシステムと、地方都市の現状を踏まえた地方型のシステムを別々に構築する必要があるという。

■目に見える力・見えない力

 医師不足や病院の集約を報道機関が伝える場合、「近くに病院・診療科が無くなり、多くの患者が不安を感じています」という内容がほとんどだ。しかし実際には、十分な体制の整っていない施設で医療を受けることのほうが、何倍もリスクがある。リスクを放置し、実際に事故があれば、互いに傷つけあい、優秀な人材が医療界を去ったり、入ろうとしなくなったりする傾向も強まるだろう。

 地域には、どんな医療が必要か。地域と地域、医療機関と医療機関をつないで支えあうシステムはどうあるべきか。限られた「有形の力」を効率的に配置し、そのうえで「無形の力」を養っていくべきではないだろうか。東北に残された選択肢は少ない。
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