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「勝負に出た小泉」關田伸雄
(掲載日 2005.2.22)
 「郵政民営化」を最大の政治課題と位置付け、ひたすら「郵政民営化こそ改革の本丸」と叫び続けてきた小泉純一郎首相が”最後の勝負”に出ている。3月中旬に関連法案を提出、政治生命を賭けて今国会成立をはかる構えで、来年度予算が成立する3月末以降、6月19日の会期末に向けて、衆院解散の可能性をはらみながらの政局展開になりそうだ。

 ”宣戦布告”は1月21日に衆参両院で行った施政方針演説。「総論にとどめる」という自民党郵政関係議員の希望的観測を裏切る形で、郵政事業を4分社化し、郵便貯金と簡易保険については完全に「民有民営」とすることを明言した。1月4日に行った新年恒例の記者会見では「(政府の)基本方針に沿って民営化の法案を作成していく」と述べるにとどまり、18日の自民党大会でも「あらゆる時代に改革は不可欠」と具体論に踏み込まなかっただけに、特定郵便局長会をはじめとする民営化反対勢力には衝撃だった。

 もちろん”予兆”がなかったわけではない。小泉首相は党大会のあと、記者団に「直球もあれば、フォークボール、カーブ、シュートもある。持ち球、結構あるんだよ」とうそぶき、1月19日に日本記者クラブで行った記者会見でも「(郵政民営化を)これまでどの党も口に出してこなかった。

 『実現できれば奇跡』と言われる。「その奇跡に挑戦するのが小泉内閣だ」と怪気炎を上げている。20日に発表された経済協力開発機構(OECD)の対日審査報告で郵政民営化を「公共部門から民間に資金の流れが移され、潜在成長力の強化と財政再建につながる」と評価されたことも小泉首相に勢いを与えた。

■面子をつぶされた抵抗勢力

 自民党内の”抵抗勢力”側は片山虎之助参院幹事長が施政方針演説直後に「(政府の基本方針に)書かれていることが一歩も譲れず、郵貯・簡保の完全民営化となると、党の大勢とは溝がある。(関連法案提出に向けた政府と自民党との)調整がかなり困難になる」と牽制。政府・与党間の調整を担当する園田博之・自民党郵政合同部会長も「体裁だけにとらわれているとしか思えない。失望した」とため息をついた。緩いカーブが来ると予想していたバッターが内角すれすれの直球に驚いてバットを振るのを忘れた格好だ。

 労働団体・連合との関係で対案提出さえあきらめている野党第1党の民主党は、岡田克也代表が1月24日の代表質問で「(郵政民営化が)なぜ必要なのか、未だに国民の理解は深まっていない」といちゃもんをつけるのがやっとだった。

 面子をつぶされた抵抗勢力側は2月2日、政府が郵政民営化の意義をPRする広報活動を行っていることに対し、「民営化が決定しているかのような誤解を与える恐れがある」として中止を要求した。だが、小泉首相は「『もっと説明しろ』とさかんに言ってたでしょ。『説明を中止しろ』と言うのはわかんないね。どんどん(広報を)してきますよ」と完全無視をきめこんでいる。緒戦は完全に小泉首相に軍配が上がった形。

 当面は来年度予算案審議が優先されることから、郵政民営化問題は予算案の衆院通過が予想される2月末から3月初めまで、水面下での調整を除いて、事実上”封印”されることになる。

 では、そのあとの展開はどうなるのか。(1)関連法案をめぐる政府・与党の調整は政府が基本方針を譲らないまま決裂、(2)政府は自民党総務会の了承を得られないまま関連法案を国会に提出、(3)「小泉首相vs抵抗勢力」という構図での混乱―というところまでは予想がつく。

■「解散」か「退陣」か

 問題はそのときの世論の動向だ。政府が展開中の広報は「郵政民営化は、日本活性化です」をキーワードに主婦や高齢者には民営化によってサービスが向上することを強調、サラリーマンには行政改革や産業構造改革と絡めて民営化の必要性を説くもので、小泉首相サイドには「かならず国民の理解は得られる。そうなれば抵抗勢力側も表向きは受け入れられないまでも、自らの身分を危うくするまでして法案成立阻止に動くことはない」(首相周辺)という観測がある。

 背景にあるのは衆院解散という伝家の宝刀。小泉首相は1月19日の日本記者クラブでの会見で、自らの自民党総裁任期(=首相在任)について「どんなに長くても来年9月までだ」と表明しており、背水の陣で関連法案の今国会成立を期す構えだ。

 朝日新聞が1月末に実施した世論調査によると、小泉内閣支持率は政権発足以来最低の33%にまで落ち込んでいるものの、来年秋までの小泉政権存続を希望する割合は過半数の53%に達している。小泉首相が郵政民営化を争点に衆院解散に踏み切れば、自民党も分裂するが、民主党も無傷ではいられない。

 もちろん、民営化支持の世論が盛り上がらなければ、首相に解散という選択肢はなくなる。首相が抵抗勢力の広報活動中止要求を黙殺するのは、そういう事態を回避するためだ。解散か退陣か。かつて”変人”と呼ばれた小泉首相は、なりふりかまわず、政治生命を賭けた最後の戦いに出ている。

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