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先見創意の会

コロナ禍の中でウイルスの生存戦略に思いを巡らし、我々の取るべき態度を考える

佐藤敏信 (久留米大学教授・医学博士)

今回のコロナ禍で、ご自身やご家族、ご友人で感染された方がおられれば、大変な思いをされたことと拝察する。

さて、筆者は、臨床の経験はあるが、わずか1年。研究に従事したのも、たかだか4年程度。それもウイルス学にはあまり関係のない領域である。それでも、自分なりに勉強はしてきたので、思うところはある。

誤解を恐れず、純粋に科学の立場だけに立って申し上げれば、そもそもウイルス感染症はそれほど恐ろしい疾患ではないのかもしれない。

マラリアはどうだ、ペストは、結核は・・・?とおっしゃるかもしれないがマラリアは原虫、ペストや結核は細菌だ。ウイルスは、それらとは明確に異なるものだということを理解していただく必要がある。

ウイルスはそもそも生物かどうかというところから出発しないといけない。自分自身では増殖することができず、宿主である人間や動物の細胞に侵入し、自分の遺伝子情報を宿主に伝えて複製してもらってはじめて増殖できるからだ。つまり単独では自分の遺伝情報を複製することはできないのだ。それでもドーキンス風に言えば、自己の遺伝子の複製をその生存目的としているという点で、通常の「生物」に類似はしていると言えよう。

では、ウイルスの生存戦略は何か。➀前述のように宿主(の細胞の中)に、侵入するということ。それも、できるだけ宿主とその免疫機構に「気づかれないよう」に。そして、➁できるだけ宿主と共存するということ。宿主を殺して(死なせて)しまったら、自己の遺伝情報を増幅し、増殖することができないからだ。さらに、➂宿主と共存しつつ、できるだけ多く他の宿主に感染して自分の遺伝情報を増幅することである。

このうち、②は非常に重要である。他の宿主に感染させる前の早い段階で宿主を殺してしまっては、目的が十分に達成できないからである。また強毒で致死的であることが宿主である人間に知られてしまうと、「隔離」のようなことになるので、それ以上他の宿主に感染させることはできなくなる。

新型コロナウイルスの場合の生存戦略を、こうした観点に沿って眺めてみると、まず、a.感染しても無症状の期間があるため、その間に宿主(である人間)が活動し、他の宿主に感染させることがあげられる。そもそも、感染してもそれほど症状が現れず、動き回る人さえいる。次に、b.空気感染と考えられるほどに感染力が強いことがあげられる。ウイルスとしては同様の形態をしたインフルエンザが、おそらくはマスクや手洗いの効果によって、2020―21年のシーズンに激減したことから、新型コロナの感染力の強さが窺い知れる(図1)。


   
c.しかし、変異を起こす中で、前述のようにあまりにも強毒で致死的なものになってしまうと、人間の側が「リモートワーク」にしたり「休校」にしたりして感染を遮断しようとするし、さらに進めば「隔離」にもなるだろう。ウイルスの生存戦略としてはあまり「賢い」とは言えない。

こういう視点でウイルス感染症全体を見渡してみると、C型肝炎ウイルスや子宮頸がんの原因であるHPV(ヒトパピローマウイルス)は、実に巧妙な生存戦略を持っていると言える。いずれも長期間にわたって、宿主の免疫防御機構に察知されないか、察知されても排除されないまま、長期間共存する。その結果、他の宿主に感染させる機会が増えるのである。

繰り返しになるが、宿主を死に至らしめるウイルスは生存戦略という観点からは、あまり「賢くない」ウイルスということになる。こうしたウイルスには、エボラ出血熱に代表される、出血熱のグループ、それに毛色の変わったところではHIVということになるだろう。毛色の変わったという意味は免疫担当細胞に侵入して、「監視の目」自体を壊してしまうからである。そのせいで他の感染症にかかりやすくなり宿主は死に至る。

新型コロナに話を戻せば、原稿執筆時点でいくつかの変異株の出現や、第4波についても報じられていて、まだまだ予断を許さない。しかし、製薬各社も、これまでの分子生物学の知識や技術を駆使して、新しい機序のワクチンを市場へ供給すべく全力を挙げている。相変わらず恐怖心だけを煽るような一部のマスコミもあるが、過剰に反応するのではなく、冷静に状況を見極めて対応して欲しいものである。

【参考資料】
・国立感染症研究所「感染症発生動向調査週報ダウンロード2021年」

佐藤敏信(久留米大学教授、医学博士)

◇◇佐藤敏信氏の掲載済コラム◇◇
◆「コロナを「正しく恐れる」とはいうものの」【2020.12.22掲載】
◆「コロナ禍の中でわが国の感染症の歴史を知る」【2020.9.8掲載】
◆「アフターコロナを考える」【2020.5.12掲載】

☞それ以前のコラムはこちらから

2021.04.20