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がんゲノム医療

がんゲノム医療を牽引する「がんゲノム医療中核病院」とは?

がんゲノム医療を希望する患者が、全国どこにいてもアクセス可能な体制を整備するー。国の主導による、がんゲノム医療提供体制の整備が始まっている。今回は、がんゲノム医療の牽引役に位置づけられた「がんゲノム医療中核拠点病院」にフォーカスする。
現在、計画遂行期間中の「第3期がん対策推進基本計画」(2017〜2022年度の6年間を目安)。その施策の1つとして、がんゲノム医療の実現が盛り込まれた。これを受けて、厚生労働省は2017年に初めて「がんゲノム医療中核拠点病院」(以下、中核拠点病院)を指定。2020年4月1日時点で中核拠点病院は12施設。これに次ぐ機能を持つ「がんゲノム医療拠点病院」(以下、拠点病院)は33施設。中核拠点病院や拠点病院と連携してゲノム医療を提供する「がんゲノム医療連携病院」(以下、連携病院)は、161施設が指定を受けている。

がんゲノム医療が提供されるまで、一般的な流れは?

中核拠点病院などにおける、がんゲノム医療は次のような流れで提供される。まず患者に説明をし、同意を得た上で
①検体(がんの組織や血液)を採取する。
②検体からがんの塩基配列情報を解析(遺伝子パネル検査)する。
③解析結果を診療情報とともに国立がん研究センター内の「がんゲノム情報管理センター(C-CAT、シー・キャット)」に送付する。
④C-CATでは、これを「がん診療データベース」(がんゲノム情報レポジトリー、がん知識データベース)に登録する。
⑤さらにデータベースに蓄積された情報と照合して、その患者に有効と考えられる抗がん剤や治験、臨床試験などの情報を掲載した調査結果を作成し、病院に返却する。
⑥病院はC-CATの調査結果と遺伝子パネル検査の結果について院内のエキスパートパネル(専門家会議)で検討する。
⑦エキスパートパネルの検討結果を踏まえた治療方針を担当医が患者に説明し、同意が得られれば治療を開始する。

中核拠点病院・拠点病院と、連携病院の違いは?

中核拠点病院及び拠点病院と、連携病院の大きな違いは、遺伝子パネル検査の医学的解釈を自施設で完結できるかどうかという点にある。連携病院は中核拠点病院などとの協力体制が構築されていれば、遺伝子パネル検査やエキスパートパネルなどを自前で整える必要はない(ただし、遺伝子パネル検査については中核拠点病院なども検査会社への外注が可能)。また厚労相の指定を受けるプロセスも異なり、連携病院については自院による申請ではなく、中核拠点病院または拠点病院が自院と連携する連携病院候補を申請する仕組みとなっている。

患者への説明を担う「がんゲノム医療コーディネーター」の養成も

こうした施設の整備と並行し、「がんゲノム医療コーディネーター」と呼ばれる新たな専門職の育成も進められている。がんゲノム医療コーディネーターは患者に遺伝子パネル検査の内容を説明したり、治療の標的となる遺伝子異常が判明した患者への治験の紹介を調整したりする役割を担う。日本臨床腫瘍学会が厚労省からの委託で2017年度から養成を開始。がんゲノム医療の中核拠点病院やがん診療連携拠点病院などに勤務する看護師、薬剤師、臨床検査技師、遺伝カウンセラーを対象に全国で研修を実施している。

がんゲノム医療の平等受療への課題は何か?

均てん化に向けた医療提供体制の整備が進むがんゲノム医療だが、課題もある。遺伝子パネル検査の一部は2019年6月に保険適用されているものの、対象者は、▽局所進行もしくは転移が認められ、標準治療が終了となった固形がん患者(終了が見込まれるものを含む)▽標準治療がない固形がん患者―のいずれかに該当し、全身状態や臓器機能などから検査実施後に化学療法の適応となる可能性が高いと主治医が判断した場合に限られる。しかも、検査を受けた患者のうち、実際に治療法が見つかる割合は10〜20%と言われている。
実際、厚労省が中核拠点病院など134施設(中核拠点11施設、拠点34施設、連携89施設)を対象に行なった実態把握調査によると、19年6月〜10月までの4カ月間にこれら施設で実施された遺伝子パネル検査(保険診療の場合)の総件数は、805件。このうち治療に結びついたのは全体の10.9%に当たる88件だったことが明らかになっている。

がん診療データベースの登録情報を医薬品の研究開発に活用

標準治療のように広く普及するには程遠い状況だが、C-CATのがん診療データベースの登録情報については、今後、2次利用するための環境整備が進められる予定だ。登録されているのは、がんのゲノム配列情報と診療情報が紐づいた非常に貴重な情報であり、国内外の研究機関や製薬企業などが利用することで、新たな治療法の開発に結びつくことが期待される。
<参考> ◎厚生労働省HP
がんゲノム医療提供体制におけるがんゲノム医療中核拠点病院等一覧表 
■第3回ゲノム医療推進コンソーシアム運営会議(2019年12月5日)
資料1―1「がんゲノム医療推進に向けた取り組みの進捗」
  ・資料1―2「遺伝子パネル検査の実態把握調査の報告」
◎公益社団法人日本臨床腫瘍学会HP
がんのゲノム医療従事者研修事業 
著者:医療ライター・谷口久美子
【PR】 上記コラムは、日本医師会ORCA管理機構主催・e-ラーニング講座「倶楽部オベリスク」にて配信中の「教養のための遺伝子学」の内容を抜粋しています。